artscapeレビュー

ジョアン・ピーター・ホル個展「Dystopia(dreaming of a new galaxy)」

2012年03月01日号

会期:2012/01/21~2012/02/18

studio J[大阪府]

オランダの作家ジョアン・ピーター・ホル(John Peter Hol)の個展。ミラノとロンドンに拠点を置くホルはヨーロッパおよび日本で作品を発表しており、今回はstudio Jでの4度目の個展となった。段ボールでつくられた黒い鳥たちが飛び交う空間の向こうに「DYSTOPiA」の切り文字が見える。こう書くと、ヒッチコックの『鳥』へのオマージュと解されそうだが、幼稚園児がつくったかのような粗雑に切り貼りされた鳥たちにそうした連関性はないだろう。このように一見、既存のイコンやスタイルの引用を装うものに見えながら、つぶさに見ると、そうしたポストモダン的解釈をことごとく裏切ってしまうような摩訶不思議な魅力がホルの作品にはある。
額装されたペーパーワークにしても、個々のモティーフに注目すれば、ダダ風の人物や19世紀パリの影絵芝居風の帆船のシルエット、店頭のPOP広告に使われる蛍光色の札といった具合に20世紀の視覚芸術の歴史を採り出した感がある。だが、額の内部でそれらが組み合わさり、生じさせる雰囲気は、実に21世紀的な洗練に満ちている。そのような印象を与えるのは、この作品がまさに「紙という物質」による「3D」の真似事だからなのか。あるいは、紙による「3D」の真似事にもかかわらず、物質以外の何物でもない紙が、どういうわけかピンクや黄緑の蛍光色という「ヴァーチャル」な光に包まれているからなのか(この効果は、紙の裏の蛍光色が白の地に反射するというきわめてアナログな仕掛けによる)。ホルの意図はけっしてインテリア・オブジェをつくることにはないだろうが、モティーフの記号的意味を否定せずともそれを凌駕するような感覚的世界の高みへと向かう彼の作品は、アートとデザインの両岸を自由に行き来するものにも思える。彼が行なうささやかな転覆と仕掛けこそが21世紀のひとつの洗練とはいえまいか。彼の放つささやかな一矢が次回はどのような姿をとるか、いまから楽しみだ。[橋本啓子]




展示風景

2012/02/18(土)(SYNK)

2012年03月01日号の
artscapeレビュー