artscapeレビュー
小松浩子 写真展 ブロイラースペース時代の彼女の名前
2012年03月01日号
会期:2012/02/07~2012/02/12
目黒区美術館 区民ギャラリー[東京都]
最近まで東京は桜上水にあった「ブロイラースペース」。写真家の榎本千賀子と小松浩子が共同運営しながら毎月一度それぞれ新作を発表するためのスペースで、2011年6月におよそ1年間の活動を終えた。本展は、そこで小松が発表した作品のなかから厳選した写真を展示したもの。600点あまりの写真を壁面に展示すると同時に、20メートルの印画紙にそのまま焼きつけた長大な写真を壁面に張り巡らせ、一部を床に寝かせて展示した。大空間をたったひとりで埋め尽くした、渾身の展示である。小松がレンズを向けているのは、かねてから土建業者の資材置き場だが、モノクロ写真には重機や装置、ブロック、タイヤ、各種の建材などを集積させた光景が映し出されている。そのおびただしい物量自体に迫力があるが、よく見てみると、それらの物を規則的に配列する秩序と、その外側に逸脱する力が、写真の中で激しくせめぎ合っていることに気づく。求心的に引きつける力と、外向的にあふれ出る力が、ひとつの写真の中で入り乱れ、そのダイナミズムが得体の知れない蠢きの気配を醸し出しているのだろう。それは、暗い森の中で何かの存在を不意に感じ取ってしまった、あの怖ろしい感覚に近い。
2012/02/09(木)(福住廉)