artscapeレビュー
バミューダトライアングル
2012年03月01日号
会期:2012/02/04~2012/02/12
シャトー小金井[東京都]
有賀慎吾、泉太郎、小林史子による3人展。新進気鋭のアーティストたちが、古いマンションの中の空間を、それぞれ思う存分に活用した展示で、たいへん見応えがあった。黄色と黒によってアブノーマルな世界を創り出す有賀は、例によって不気味で不穏なインスタレーションを発表したが、あえて小さな入り口から来場者を招き入れることによって、あたかも直腸に進入するかのような変態性を体感させた。家具や電化製品を再構成する小林は、そのようにして部屋の中にもうひとつの部屋をつくり出したが、部分の集積であるにもかわらず、もうひとつの部屋の外壁が垂直の壁であるかのように感じられる反面、内部は乱雑に仕立てられた不思議な構造体だった。そして、噴水のある大空間を使った泉もまた、これまでと同様、既存の空間に介入し、映像の撮影と投影の場所を同一にしながら、独自の遊戯を展開した。鯉が泳ぐ池の中に飛び込み、ともに回遊しようとする映像を、その池の底に投影する作品は、映像の中では当然鯉に逃げられるものの、実際の池の中で泳ぐ鯉は、投影された映像の中の泉とともに見事に泳いでいるように見える。映像をとおして鯉との叶わぬ接触を図っているようだ。さらに全身黒タイツ姿でビリヤード台の上に仰向けに横たわった泉のまわりに数人の女性が立ち並び、手足の切れ目からひたすらボールを出し入れする映像も、終始カメラ目線の泉がコミカルなユーモアを醸し出しつつ、ボールの出し入れの反復が、奇妙なエロティシズムを感じさせた。最近の泉太郎は、どういうわけかエロチックな印象の強い映像を数多く制作しているが、今回の作品はそのなかでもとりわけ突出しているような気がする。映像というフィルターをとおして不可触の対象と接触するというフィクション。だがそれは、泉の作品に限られた特質ではないようだ。粘着的ともいえる有賀の作品も、鋭角的な小林の作品も、ともになにかしらの触覚性ないしは皮膚感覚を大いに刺激するからだ。
2012/02/10(金)(福住廉)