artscapeレビュー

渋谷ユートピア 1900-1945

2012年03月01日号

会期:2011/12/06~2012/01/29

渋谷区立松濤美術館[東京都]

「渋谷」に集った近代美術の画家たちによる作品を見せる展覧会。菱田春草や岡田三郎助、岸田劉生など、主に前世紀の前半に現在の「渋谷」近辺に住んで制作していた画家たちによる作品を展示した。近代美術を新鮮に見せるための文脈として「渋谷」を担ぎ出したのはよい。当時の地図と現在の写真をあわせて見せるなど、展示に一工夫加えている点も好印象だ。ただし、同展が射程に収めている「渋谷」は、現在の青山や麻布、恵比寿なども含んでおり、地政学的なカテゴリーからの逸脱が大きすぎるといわざるをえない。なんといっても、渋谷は文字どおり「谷」なのだから、青山を「渋谷」と呼ぶにはどう考えても無理がある。そうした地理的な条件を超越するほどの共同体が結ばれていれば話は別だが、展示を見るかぎり、池袋モンパルナスのような濃密な人間関係が結ばれていたようにも思えない。さらなる今後の調査研究を待ちたい。

2012/01/29(日)(福住廉)

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