2019年09月15日号
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artscapeレビュー

風間サチコ プチブル

2014年02月01日号

会期:2014/01/09~2014/01/19

無人島プロダクション[東京都]

2002年にナンシー関が亡くなったとき、埋めがたいほどの喪失感を覚えた人は少なくなかった。彼女の批評的視線は視聴者のそれを鍛えあげる格好のモデルだったし、テレビのクリエイターにとっても鋭利な批評家の不在は良質の番組を制作するうえで大きな損失だったからだ。事実、テレビが退屈になり始めたのは、ナンシー関がテレビを見なくなった頃からだったと言ってよい。
本展は、版画家・風間サチコの初期作を一覧したもの。社会的政治的な主題をユーモアとアイロニーを込めながら巧みに構成する作風で知られているが、今回の展観でそれが初期から一貫していることがわかった。むろん、初期の作品はおおむね主題を二重三重に重層化していたので、現在の作品に見られる明快性は見受けられないという違いはある。けれども、風間が作品を制作するうえでの構えに、同時代的な批評性をつねに帯同していたことは一目瞭然であった。
なかでも注目したのは、新作の消しゴム版画である。「プチブル」「家畜」「レイシスト」「愚民」「下民」といった近年の社会を物語る言葉を消しゴムに彫り、それらで刷った風間の名刺が版とともに展示された。つまり以上のような言葉を自らの肩書きとして見せていたわけだ。風間の批評性には、言ってみれば自分の身体を貫通させながら、その切っ先で相手を一撃するような凄みがあるのだ。
ナンシー関は亡くなった。でも大丈夫。風間サチコがいるんだから。信じるに足る視線を持ったアーティストが同時代に生きていることの意味は、とてつもなく大きい。

2014/01/19(日)(福住廉)

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