2019年11月01日号
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artscapeレビュー

IMARI/伊万里──ヨーロッパの宮殿を飾った日本磁器

2014年02月01日号

会期:2014/01/25~2014/03/16

サントリー美術館[東京都]

17世紀初頭から佐賀県有田でつくられはじめた日本で最初の磁器は、近隣の伊万里港から各地へ出荷されたために「伊万里焼」の名で呼ばれるようになった。17世紀半ばになると、伊万里焼はオランダ東インド会社の手によって大量にヨーロッパに輸出されるようになる。しかしながら、公式な輸出取引は18世紀半ばには途絶えてしまった。この展覧会では、この100余年における輸出用伊万里焼生産の盛衰、製品・絵付けなどの変化と海外での受容の様相を、大阪市立東洋陶磁美術館が所蔵する古伊万里コレクションを中心に、サントリー美術館、九州陶磁文化館の所蔵品を加えて辿る展覧会である。
 第1章「IMARI、世界へ」は、1660年から1670年代までの初期輸出用伊万里焼を取り上げている。日本で磁器が初めて焼かれたのは17世紀初頭。おもに景徳鎮から輸入されていた磁器の代替品として生産が始まり、次第に生産量と技術水準が向上していった。転機をもたらしたのは明から清への王朝交代である。ヨーロッパでは長らく磁器を焼くことができなかったために、中国から輸入される磁器は「白い金(white gold)」と呼ばれ、金に匹敵する価値のある貴重な品として取引されていた。ところが、中国国内の内乱と清朝による海禁令(貿易禁止令)によって、ヨーロッパへの磁器輸出を行なっていた景徳鎮からの製品供給が途絶えた結果、オランダ東インド会社は有田にその代替的な供給を求めたのである。最初の輸出は1659年。初期の輸出品は中国の青花磁器(染付磁器)を模したものが多く、不足する供給をまかなうためか一部国内向けに絵付けされた製品も輸出されたという。第2章は、「世界を魅了したIMARI──柿右衛門様式」。1670年から1690年代までの輸出最盛期を取り上げる。暖かみのある乳白色の素地に色絵を施した磁器はヨーロッパで人気を博し、その後各地で多くの模倣品が作られた。第3章は「欧州王侯貴族の愛した絢爛豪華──金襴手様式」。1690年から1730年頃には柿右衛門様式の色絵磁器は姿を消し、大型の壺や瓶に色絵と金彩による金襴手と呼ばれる絵付けを施した製品が輸出される。他方で、清朝の安定により1684年に中国からの磁器輸出が再開されると、景徳鎮でも伊万里の様式を模した製品が作られるようになり、伊万里焼は熾烈な国際競争を強いられるようになる。第4章は「輸出時代の終焉」。最終的に伊万里焼は圧倒的な生産量を誇る景徳鎮との競争に敗れ、またヨーロッパでの磁器生産も始まり、輸出は衰退。長崎貿易制限令もあって1757年に公式な輸出は幕を閉じることになる。
 オランダ東インド会社は、景徳鎮に対しても有田に対しても希望する製品の型や絵付けに詳細な指示を出していた。ヨーロッパ人は自分たちで磁器をつくることはできなかったが、長いあいだ自分たちが欲する製品の製造を「外注」していたのだ。ただし、希望どおりの品が手に入るとは限らない。こうした文脈で特に興味深かったのは、オランダ人画家コルネリス・プロンクの下絵によって景徳鎮と有田でつくられた《色絵傘美人文皿》である。同じ下絵が元になっているにもかかわらず、景徳鎮のものは中国風の美人図、伊万里は浮世絵に見られるような日本美人が描かれているのである(結局注文は景徳鎮の製品に行ったという)。こうした模倣の様相と、それが完全ではないために生じた「オリジナリティ」は、アジア内に留まらず、オランダのデルフト焼などのヨーロッパの窯とのあいだにも生じている。また、絵付けばかりではなく、ヨーロッパの金属器を模した磁器が日本でつくられた例もあり、グローバルな商品としての磁器の流通がデザインにおいて東西の交流をもたらした姿はとても興味深い★1
 ものには、つくり手と受け手とで異なる文脈があることも、本展で示されている点であろう。伊万里焼はつくり手にとっては海外からの注文に応じた「商品生産」であったが、輸出先のヨーロッパにおいては高価な「美術工芸品」として需要されていた。本展の展示はつくり手側を取りまく環境の変化によって代表的な輸出品を構成しているが、他方で展示デザインではヨーロッパの宮殿につくられた「磁器の間」を再現している部分もあり、これは受け手の視点なのである。そして、受け手の側に立つならば、それが日本のものなのか中国のものなのか、明確に区別できていなかったであろうことも考慮する必要がある。
 本展は、長野(松本市美術館、2014/4/12~6/8)、大阪(大阪市立東洋陶磁美術館、2014/8/16~11/30)に巡回する。[新川徳彦]

★1──このようなデザインの相互交流に焦点を当てた展覧会として、「陶磁の東西交流──景徳鎮・柿右衛門・古伊万里からデルフト・マイセン」 (出光美術館、2008/11/1~12/23)が思い出される。


展示風景

2014/01/24(金)(SYNK)

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