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artscapeレビュー

アートが絵本と出会うとき──美術のパイオニアたちの試み

2014年02月01日号

会期:2013/11/16~2014/01/19

うらわ美術館[埼玉県]

この展覧会はもともとは「前衛と絵本」というタイトルで企画されたと聞く(たしかに英文タイトルは「Avant-garde and Children」である)。すなわち、ロシア・アヴァンギャルドから現代アートまで、表現の先端にあり、かつ子どものための絵本においても実験精神を発揮した美術家たちの仕事を辿る展覧会である。展示はおおむね美術運動の時代別に7章に分けられ、美術家たちの多彩な作品を紹介するとともに、その制作活動のなかに絵本を位置づけている。第1章と第2章は海外の前衛美術運動と絵本の関係。単純な色と形、廉価な造本。革命直後のロシアにおいて絵本は子どもたちの教育と啓蒙の媒体であると同時に、ロシア・アヴァンギャルドの芸術家たちの実験の場であったことが示される。また、ダダや未来派などのタイポグラフィによる絵本の試みも面白い。第3章からは日本の前衛と絵本。村山知義、柳瀬正夢らの仕事には、同時代の海外の動向を取り入れつつ、それを独自の表現へと昇華させていった様が見て取れる。第4章は絵本における抽象表現の先駆けとして恩地孝四郎、第5章では絵本雑誌『コドモノクニ』(東京社)を舞台とした古賀春江らの幻想的な世界が紹介されている。第6章は、童詩雑誌『きりん』を中心とした吉原治良ら具体美術協会と絵本の関係。さらに元永定正の抽象絵本が多数紹介されている。第7章は池田龍雄、山下菊二、高松次郎、大竹伸朗ら、現代美術家が手がけた絵本である。
 なぜ美術家が絵本を手がけるのか。その理由はさまざまであるように見える。革命直後のソビエトにおいては、絵本には子どもたちの教育という目的があった。印刷技術や出版業の発展、絵雑誌など、絵本を取りまく環境の変化も挙げられる。しかしそれは童画家なども含む絵本画家全般に言えることである。もうひとつ、この展示で示唆されているのは、美術家と子どもたちとの直接的な関わりである。シュヴィッタースのおとぎ話や絵本は、彼とその子どもたちとの日常から生み出されたものだ。柳瀬正夢は無類の子ども好きであったという。恩地孝四郎は、絵本雑誌『子供之友』(婦人之友社)から村山知義や武井武雄の童画を抜粋し、自分の子どものために装幀し直したりもしている。子どもを持つことが、美術家たちに新たな表現の対象を見出させるのだ。そして何よりも、それはけっして大人から子どもに与えるという一方的な関係ではない点が興味深い。
 絵本と子どもたちの関係を見ると、美術に対する反応が大人たちのそれとはずいぶんと異なっているようだ。元永定正の抽象絵本には、いったい誰を読者に想定しているのだろうという印象を抱いたのだが、これが子どもたちに人気で、なかでも『もこ もこもこ』(文研出版、1977)は最近100万部を超えたということを聞いて驚いた。アマゾンのカスタマー・レビューには、大人にはさっぱりわからないが、子どもにがとても気に入っているという記述がいくつもある。なるほど、子どもには見えていても大人になるにつれて見えなくなるものがあるのだということを改めて思い知らされる。
 本展は下関市立美術館に巡回する(2014/7/17~8/31)。[新川徳彦]


展示風景

2014/01/16(木)(SYNK)

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