2019年09月01日号
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artscapeレビュー

パテック フィリップ展──歴史の中のタイムピース

2014年02月01日号

会期:2014/01/17~2014/01/19

明治神宮外苑 聖徳記念絵画館[東京都]

スイス・ジュネーヴの最高級時計ブランド、パテック・フィリップ社の創立175周年および日本・スイス国交樹立150周年を記念し聖徳記念絵画館で展覧会が開催された。ロシア圧制下にあったポーランドからスイスに亡命したアントワーヌ・ノルベール・ド・パテックと時計師フランソワ・チャペックによって創業されたパテック・チャペック社がその起源で、後にフランスの天才的な時計師ジャン=アドリアン・フィリップと出会い、1851年にパテック・フィリップ社と改称された。英国のヴィクトリア女王や夫であるアルバート公、作曲家のチャイコフスキーやワーグナー、作家のトルストイなど、多くの偉人たちが顧客となってきた時計メーカーである。今回の展覧会は、聖徳記念絵画館を舞台に、ジュネーヴのパテック・フィリップ・ミュージアムが所蔵する19世紀半ばから20世紀初めまでの懐中時計の名品80点が、それぞれの絵画に合わせて展示された。絵画館が会場に選ばれた理由は、主に3つ。パテック・フィリップ社が名声を確立した時代が日本の明治時代にあたること。明治天皇が時計好きであったということ。岩倉具視らの使節団が1873(明治6)年にヨーロッパを訪問した際にパテック・フィリップ社を見学した★1という歴史的な縁があるということ、である。
 絵画館の重厚な空間、明治天皇の事績が描かれた日本画と洋画80点を背景に、ほぼ同時代の懐中時計がケースに入って並んでいる。通常、歴史的な製品を紹介するのであればその製品の説明ばかりではなく、時代背景の紹介も必要となろう。しかしここにはすでに絵画と解説パネルが設置されており、それ以上の説明はいらない。空間それ自体が「伝統と革新」というパテック・フィリップ社のイメージと見事に一致している。とてもシンプルな会場構成であったが、それがなによりも効果的であった。
 スイスの時計産業は1970年代のクオーツ・ショックで大きな打撃を受けた。しかしながら、その後の日本の時計産業が低価格競争によって疲弊していく一方で、スイスの時計産業は高級路線によって再編され、売上を拡大してきた。そうしたスイス高級時計ブランドのなかでも、とくにパテック・フィリップ社は他のブランドに呑み込まれることなく、独自の路線を貫いてきた存在である。170年余という歴史や、著名人に愛されてきたことがブランドのイメージに資してきたことはもちろんであるが、そのものづくりの背後には、技術や素材における絶え間ない革新が見て取れる。それでいながら、100年前の時計でも修理できるという技術を保持し続けている。デザインにおいて流行を追うことはなく、外部のデザイナーと共同することもないというが、つねに新しい製品を出し続け、それでありながら不思議と過去の製品が古びては見えない。消費されるデザインではないのである。時計以外の製品を手がけることはなく、ブランドのイメージは拡散しない。需要が拡大してもやみくもに生産を拡大することはなく、独自の基準を設けて品質の保証を優先する。きらびやかな宝石によって付加価値を付けるのではなく、手作業による超絶的な加工・組み立てがそのまま製品の価値、価格として認められている。それらを実現しているのは自社の歴史と強みに対する正しい認識ではないだろうかと今回のコレクションを見て感じた。アジアとの価格競争に窮している日本の製造業を見るに、パテック・フィリップを初めとするスイス時計産業の歴史的展開には学ぶところがたくさんあると思う。[新川徳彦]

★1──久米邦武編著『米欧回覧実記』(86巻89~90頁)に記述されている。



展示風景

2014/01/17(金)(SYNK)

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