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artscapeレビュー

特別展「川瀬巴水──生誕130年記念」

2014年02月01日号

会期:2013/10/27~2014/03/02

大田区立郷土博物館[東京都]

川瀬巴水は昭和5(1930)年から亡くなる昭和32(1957)年まで、大田区の馬込に居を構えていた。そのような縁で、大田区立郷土博物館はこれまでに川瀬巴水の作品を重点的に蒐集してきた。摺りの異なる作品や、試摺り、順序摺りなどを含めるとその数は500点ほどになるという。2012年末には馬込時代の作品に焦点をあてた展覧会が開催されるなど(「馬込時代の川瀬巴水」、2012/12/01~12/24)、これまでにもたびたび巴水展が開催されてきた★1。今回は川瀬巴水の生誕130年を記念して、約500点を制作の期間別に3期に分けて、スケッチや下絵とともに紹介している。
 千葉市美術館の巴水展とのいちばんの違いは、千葉が渡邊木版美術画舗のコレクションと渡邊版新版画で構成されているのに対して、大田区立郷土博物館の展示では渡邊以外の版元の作品も出品されている点。重なっている出品作が多いが、あえて両展覧会を区別するならば、千葉市美術館は版元渡邊庄三郎の仕事における川瀬巴水であり、大田区立郷土博物館の展示は版画家川瀬巴水の全貌と言えるかも知れない。ここでは、ほとんどの作品はマットのみで、ガラスケース内に展示されている。鑑賞者と作品との間にはやや距離があるが、摺りによって生じた紙の肌合いの変化を見るにはこのほうが好都合のようだ。空摺り、黄昏時に浮かび上がる街の光、独特な雪の表現、ざら摺りによる空や地面、そして湖や川、雨や水たまりなど、巴水の作品を特徴付けている数々のモチーフをじっくり堪能できる。30回から40回摺り重ねられた作品は、海外の人々には水彩画と間違えられることもあったというが、水彩による下絵と比べてみると、これはやはり版画ならではの表現であることがわかる。
 今回初めて摺りの実演を見る機会を得た。「東京二十景 荒川の月」を例に、1日かけて比較的わかりやすい部分のみを20回ほど摺り重ねていたが、ひとつの版を複数回用いて色とグラデーションの幅を変えながら摺り重ね、あの深みのある色彩を表現しているのだ。版元、絵師、彫師、摺師という制作体制は江戸期の浮世絵を引き継ぎながらも、表現手法や摺りはずいぶんと異なるものなのだということがわかった。展覧会図録は、作品とスケッチなどの図版が中心で、他には詳細な年譜が載っているのみである。しかし、本展の企画者である清水久男学芸員も寄稿している『浮世絵芸術』153号(特集=川瀬巴水、2007)はインターネット上で読むことができるので★2、ぜひとも展覧会とともに参考にされたい。[新川徳彦]

★1──関連記事:新川徳彦「プレビュー:馬込時代の川瀬巴水──馬込生活は一番面白い時代でもあった」
★2──浮世絵芸術データベース(153号/平成19年 (2007) 1月20日発行)
★3──本展は下記の3期に分かれている。
前期=「大正期から関東大震災後の復興期までの作品」(2013/10/27~12/1)
中期=「昭和初期から10年代の作品」(2013/12/7~2014/1/19)
後期=「昭和20年代、及び晩年の作品」(2014/1/25~3/2)

2014/01/12(日)(SYNK)

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