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ムサビのデザインV──1960-80年代、日本のグラフィックデザイン

2015年10月01日号

会期:2015/09/01~2015/11/07

武蔵野美術大学美術館[東京都]

2011年から続く「ムサビのデザイン」シリーズ。これまで武蔵野美術大学が所蔵する歴史的なグラフィックデザイン、プロダクトデザインが紹介されてきた。5回目の今年は昨年同大学に寄贈された4人のグラフィックデザイナーたちのポスター作品約150点により、1960年代から80年代までのグラフィックデザインに焦点が当てられている。永井一正(1929-)、田中一光(1930-2002)、福田繁雄(1932-2009)、石岡瑛子(1938-2012)──活躍した時代は概ね重なり合うものの、4人4様、それぞれスタイルが異なるように見えるデザイナーたちの30年にわたる作品を通観したときに見えてくるものはなんなのか。本展の監修者である柏木博・武蔵野美術大学教授は1960年代末から70年代前半が日本のグラフィックデザインの変容の時期であることを指摘している。すなわち、モダンデザインの時代、デザインに普遍性が求められた時代に対する疑問、それまでのデザインのコードから脱しようという動きがこの時代に現われ、その後の日本のグラフィックデザインに多様な表現が生み出される契機となったことが、戦後第2世代の4人のデザイナーたちの作品とその変容に見えてくるとする。もうひとつ指摘されている点は、技術的な変化がデザインに与えた影響である。デザインの現場、とくに広告の分野におけるアートディレクター制度の導入はデザイナー、イラストレーター、フォトグラファー、コピーライターらの協業による新しい表現を生み出していった。またこの30年間に印刷表現も大きく変化した。シルクスクリーンとオフセットとでは表現可能なスタイルが大きく異なることはもちろん、オフセット印刷における製版技術の進歩は、とくに写真表現を自在に、そして豊かなものに変えていった。石岡暎子のポスター、福田繁雄の実験的作品を見ると、印刷技術が表現に密接に影響していた関係が顕著に見える。そして、技術進歩によって生まれた多様な表現の可能性はまた脱モダンデザインの展開と軌を一にしていたことが同時に見えてこよう。
 本展のポスター、チラシ、図録には各々のポスターから解析された色の面積比がカラーチャートとして、縦軸を年代として配している。チャートの一部が左右にずれているのは印刷技法の違いを表しており、左端からオフセット、スクリーン、グラビアである。展示室の作品キャプションの左端にもこのチャートが配されており、作品の当該年度のみがカラーで、それ以外の部分は半調で示されており、作品の年代が把握できる仕掛けだ。デザインは中野デザイン事務所の中野豪雄氏。[新川徳彦]

2015/09/17(木)(SYNK)

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