artscapeレビュー
NO PROBLEM展
2017年08月01日号
会期:2017/06/20~2017/07/17
モノがつくられ、売られ、私たちの手元に届くまで、ふだん私たちがあまり意識しない工程に「検品」がある。製造時、工場出荷時、商品受け入れ時、さまざまな段階でモノは「検品」され、はじかれる。たいていのばあい私たちが手にするのは既にいくつかのふるいに掛けられた製品なので、そもそもふるいの存在を意識することは少ない。では、検品によってはじかれる製品はどのようなものなのか。機能的に不具合のある製品、安全性に問題のある製品、すなわち不良品や欠陥品がはじかれるのは当然だが、実際には良品と不良品の間にはグレーゾーンがあり、実用上は問題なくてもなんらかの基準によってはじかれる製品(B品)がある。この展覧会は検品におけるこうしたグレーゾーンに焦点を当て、モノの価値を問いかける、とても興味深い企画だ。
本展のきっかけは、インドの理化学ガラスメーカーBOROSIL社の製品VISION GLASS。その日本への輸入元である國府田商店株式会社/VISION GLASS JPが輸入後に検品した結果として日本の市場に出さなかった製品が多数生じている。わずかなキズやこすれた跡、出荷時にメーカー側でも検品しているので、そのほとんどは実用上の問題がない。実際インドでは普通に販売されており、クレームもほとんどないという。それにも関わらず、輸入された製品には日本の市場では販売が難しいと判断されるものがある。この違いは何に起因するのか。価値観の差なのか。誰が判断するのか。本展ではこれらの疑問を起点に、日本のメーカーや商店にものづくりの意識や検品の基準を取材し、それを実物とともに解説、紹介している。
展示全体を見ると、その基準は、素材や工程、製品の用途、ブランドによってさまざまだ。たとえば土人形は手作りゆえに一つひとつが異なっており、基本的に「B品」はないという(とはいえ、売れないと判断して廃棄されるものはある)。木工家具の業界では木の節が敬遠されるために、部品として利用できなかったり、塗装して利用されたりするが、同じものが海外の市場では問題なく受け入れられている。荒物を扱う商店では、製品のばらつき、サイズの不統一があってもすべて通常品として売っている。木工製品や革製品は自然素材であるがゆえに、工程に由来しない差異は買い手に受け入れて貰いたいと考える作り手もいる。基準が厳しいメーカーもあれば、それほどでもない店もある。基準がはっきりしているメーカーもあれば、オーナーの目が基準でマニュアル化できないでいる店もある。B品をアウトレットで販売するメーカーもあるが、VISION GLASS JPではB品を「NP品(No Problem品)」として、通常価格で販売する試みをしている。そこには作り手、売り手、買い手の、モノに対する多様な価値観を見ることができる。おそらく正解はない。ぶれのない高品質を売りにするブランドもあるし、手作りによる差異を楽しむ商品もある。相応に安ければ問題ないと考える買い手もいるだろう。対象が自然素材であっても、その特質を見極めることも技術のうちという考えかたもあろう。必要なことは買い手に対する丁寧な説明だ。
展示パネルでは取材先が生産・流通・販売のどの段階にあるのかが図示されていて、問題の所在が分かりやすい。チラシの黒ベタ部分には「ひっかき傷」「指跡」があり、一瞬「不良品」を手にしたのかと思ったが、数枚のチラシの同じ場所に傷があり、それがニスによる印刷で表現されたものであることに気づいてニヤリとする。欲を言えば、そこは量産化された「傷」ではなく、用紙にザラ紙を用いるなどして生じる「意図せざる不良品」でありたかったところだ。
なお、東京展は終了しているが、7月29日から8月13日まで、KIITO デザイン・クリエイティブセンター神戸(兵庫県)に巡回する。[新川徳彦]
2017/07/15(土)(SYNK)