artscapeレビュー

2017年08月01日号のレビュー/プレビュー

生の体験から知る 沖縄の戦争展

会期:2017/06/23~2017/06/25

浅草公会堂[東京都]

6月23日は沖縄戦の犠牲者たちを悼む「慰霊の日」。その象徴的な日に始められた本展は、戦争体験者の証言を写真とパネルによって伝えたもの。あわせて砲弾の破片や水筒、軍靴などの実物も展示された。
いま「展示」と書いたが、この言い方はもしかしたら本展にはそぐわないのかもしれない。というのも、本展の醍醐味は戦争の写真を「見る」ことや戦争体験者の証言を「読む」ことだけでなく、彼らの語りを「聴く」ことにもあるからだ。会場には、3つの壁面に写真とパネルが展示されていたが、真ん中の空間には椅子と机が並べられ、戦争体験者の話を直接聴くことができる「茶話会」が催された。したがって来場者は彼らの肉声を耳にしながら写真とパネルに記された沖縄戦の実態を目にすることになる。それは、展示物とのあいだに一定の距離を保ちながら吟味の視線を走らせる、通常の鑑賞法とは著しく異なる経験である。

会場で来場者に向けて証言したのは、おおむね4人。彼らがめいめい同時に発話するため、現場にはそれぞれの言葉が渦を巻きながら大きなうねりを生んでいるように感じられた。来場者は、彼らが編み出す言説空間に有無を言わさず巻き込まれると言ってもよい。そのある種の暴力性は、沖縄戦の実態を、とりわけそれに無知な現在の東京で暮らす人々に伝承するためには必要不可欠な知恵と技術なのだろう。だが、それ以上に痛感したのは、そのように視覚と聴覚を融合させながら来場者を包摂する手法そのものが、きわめて芸術的であるように感じられた点である。
「美術」が視覚を特権化する一方、「見世物」にあった聴覚や味覚などを切り捨ててきた経緯を思えば、本展に見られた芸術性は前近代への回帰志向として位置づけられるのかもしれない。あるいは、沖縄戦という大きな文脈は共有しつつも、複数の語り手がそれぞれの物語を自立的に語るという点では、広い意味で演劇的であるようにも見えた。むろん沖縄戦という厳然たる事実と、それを現在に言い伝える伝承は、本来的には別次元で考えなければならない。だが、歴史が現在によって語られることで浮上する物語だとすれば、そして戦争体験者が語ることができない時代がいずれ到来することが疑いないとすれば、今後重要になるのは歴史を召喚する芸術的な形式なのではないか。本展は、そのためのひとつの手がかりを示したように思う。

2017/06/23(金)(福住廉)

今西佳菜展

会期:2017/06/27~2017/07/02

LADS GALLERY[大阪府]

身の回りの日用品をモチーフにした木彫作品をつくる今西佳菜。作品の特徴は、普通なら美術作品に選びそうもないありふれた品を選んでいることと、適度なユルさが感じられるデフォルメと彩色だ。以前の個展ではレリーフ作品を壁面に配置していたが、本展では床や台座に置くタイプの立体がメインとなり、作品の魅力が一層高まった。ちなみに今回の作品のモチーフは、自転車、掃除機、傘、シャツ、湯たんぽ、下着など彼女の愛用品と思しきもののほか、動物をモチーフにした作品もあった。作品にはまだまだ改良の余地があるかもしれないが、磨けば光る可能性が感じられる作家である。今後も精進して個展を続けてほしい。

2017/06/27(火)(小吹隆文)

植田志保展 色のすること「接触」

会期:2017/06/27~2017/07/02

LADS GALLERY[大阪府]

植田志保の作品は透明水彩の軽やかさを活かした抽象画で、風景あるいは光や水の戯れのようにも見える。筆者は過去に何度か彼女の個展を見てきたが、今回はいままで見たなかで最も広い会場だった。そのせいか作品のサイズが大きく、それらがずらりと並ぶ様は圧巻だった。これならさらなる大作(100号以上とか)にトライしても大丈夫ではないか。いずれにせよ本展は、筆者がいままで勝手に抱いていた作家像に変更を迫るものだった。また展示構成も秀逸で、長い壁面に2種類のサイズの作品を一列に並べる一方、小品は奥の壁面にまとめてランダムに配するなど、メリハリが効いていた。湯澤美菜(精神科医)と倉持陽介(スパイラルガーデンギャラリー担当)が寄稿したテキストのパネルも、デザイン・配置共に申し分なく、展覧会のグレードを上げるのに寄与していた。

2017/06/27(火)(小吹隆文)

ジュリアン・レノン写真展 「CYCLE」

会期:2017/06/23~2017/09/17

ライカギャラリー京都[京都府]

ミュージシャンのほか、写真家としても多方面に活躍するジュリアン・レノン(ジョン・レノンの長男、リヴァプール生まれ)による写真展。展覧会名「Cycle」は、「進化を遂げながら巡り続ける生命の循環」を示しているという。これを統一テーマに、ライカギャラリーの3つ(東京・京都・GINZA SIX)では同時に、彼が東南アジアを旅してライカで撮影した写真が少しずつ異なるサブテーマのもとに展示されている。京都では、風景、人々の暮らしの様子が、「川」の情景を巡って展開される。15点中、1点を除き、写真はすべてモノクロ。写しだされるのは、川を通じて営まれる名もなき人々の日常の暮らしである。水上生活者と思しき人々やボートを漕ぐ人々の様子、川沿いの建築物など、そのどれもが喧騒に溢れていそうな場面なのに、とても静謐で詩的に見える。撮影対象は崇高とも換言できそうな、しかもそれが過剰過ぎないイメージで現れる。写真家の眼はそれほど異文化、ひいては人間の生に対する共感に満ちている。もうひとつ触れておきたいのが、この京都のギャラリーのユニークさ。築100年を超える町屋の2階、古い木材の梁と柱の構造をそのまま活かした展示室は、写真文化の奥深さを物語るに相応しい。[竹内有子]


ライカギャラリー京都

2017/07/01(土)(SYNK)

超絶記録!西山夘三のすまい採集帖

会期:2017/06/09~2017/08/22

LIXILギャラリー大阪[大阪府]

建築学者/西山夘三(1911-1994)の都市における「庶民住宅」研究の様相を、彼が残した調査資料から探る展覧会。西山は京都帝国大学建築学科入学から院生時代以来、建築計画に加えて「住宅の科学的、社会的考察」を目的として、積極的に町歩きを行った。彼はカメラを携えて大阪、京都、名古屋を巡り、綿密な住居データを採集、記録した。フィールドワークによって、庶民の生活方式のあらゆる面を把握しようとする彼のスケッチには、考現学的思考も垣間見えて面白い。戦前から戦後の住宅難の時代にかけて、実地調査の範囲は、民家、町家、農家、長屋住宅、借家建築など多種にわたる。展示される「住み方調査」の原簿と集計データ、日記やスケッチ等の膨大な記録を見ると、彼が庶民の生活様式を把握していかに実証的な研究を行おうとしていたかがわかる。その克明な記録の山は驚くほど細かく分類され、体系化されてもいる。パソコンなどない時代、彼の手書き記録の迫力に圧倒される。一時は漫画家を目指したほどの腕をもつ西山のこと、そのスケッチの技量にも唸らされる。本展では、彼が描いた調査対象の建物図面を鑑賞者がめくって見ることができるように展示が工夫されている。なにより、住居改善に携わった彼の研究態度の根底には社会主義思想があり、それがこれほどまでの精力的な活動の原動力になったことを思うと、感動を覚える。[竹内有子]

2017/07/01(土)(SYNK)

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