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ベルギー奇想の系譜展 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで

2017年08月01日号

会期:2017/07/15~2017/09/24

Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]

ボス、ブリューゲルに始まり、アンソール、クノップフ、マグリット、そしてヤン・ファーブルにいたるまで、ベルギーは一風変わった画家を輩出してきた。幻想的というだけでなく、フランスやイタリアのような美術大国の王道から外れ、少しイジケて奇をてらったような奇想の画家たちというべきか。これはおもしろそう。展覧会は15-17世紀と19-21世紀の2つの時代に完全に二分されていて、フランドル─ベルギーの歴史の複雑さ、アイデンティティの危うさに思いを馳せざるをえない。
初めにボス工房の《トゥヌグダルスの幻視》を中心に16世紀の油彩が並ぶ。先日の「ブリューゲル《バベルの塔》展」にも見られた聖クリストフォロス、聖アントニウスを主題とする作品が多く、興味深いことにどの作品も画面の左または右奥が火事で燃えている。これは地獄の業火に由来するらしいが、こうしたネガティブなモチーフもベルギー絵画の特徴のひとつだ。その後ブリューゲルの版画と、息子のヤン・ブリューゲルの油彩小品(これもボスの伝統を受け継ぎ、画面奥がハデに燃えている)、17世紀のルーベンスの版画へと続くが、ルーベンスは絵画の王道を歩んだ巨匠であり、明らかに「奇想の系譜」から浮いている(というより「奇想の系譜」が美術史の王道から浮いているのだが)。中途半端に版画を出すくらいなら最初から選ばないほうがよかったのに。
その隣の壁からいきなりフェリシアン・ロップス、フェルナン・クノップフ、ジャン・デルヴィル、ジェームズ・アンソールら19世紀末を飾った象徴主義が始まり、その落差がいかんともしがたい。300年間なにやってたんだ? だが、時代が離れていてもベルギー美術に通底するのが「死」の影であり、これが20世紀のマグリットやデルヴォー、そして現代のヤン・ファーブル、ウィム・デルヴォワ、ミヒャエル・ボレマンスらの作品にも見え隠れしている。いじわるな見方をすれば、伝統的な死の影を作品に盛り込むのが現代ベルギーのアーティストの世界戦略なのかもしれない。

2017/07/18(火)(村田真)

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