artscapeレビュー
アブラカダブラ絵画展
2017年08月01日号
会期:2017/06/03~2017/07/30
市原湖畔美術館[東京都]
同展のゲストキュレーター、カトウチカさんから熱心なお誘いを受け、東京駅前から高速バスでアクアラインを通って市原湖畔美術館へ行くハメになった。なんだかんだとここへ来るのも5回目。タイトルの「アブラカダブラ」とはいうまでもなく魔除けの呪文だが、もうひとつ「わけがわからずチンプンカンプン」という意味もあって、ここでは「得体の知れない絵画展」とでも訳すか。カトウの選んだアーティストは、佐藤万絵子、曽谷朝絵、原游、福士朋子、フランシス真悟、水戸部七絵ら12人。いま挙げた6人は、絵画といっても「絵画」の概念を問い直すような境界線上の作品で知られるが(偶然か、うち3人の名前に「絵」が入っている!)、残る6人のうち石田尚志、西原尚、松本力、村田峰紀はそれぞれ映像、音、アニメ、パフォーマンスのアーティストであり、絵画と無縁ではないものの完全に境界線を超えている。ここらへんが「得体の知れない絵画展」たるゆえんだろう。
小規模な美術館の割に出品者数が多いため、ひとり当たりのスペースが限られたせいか、旧作が多いのは残念なところ。監視員や額縁をシートに描いて壁に貼った福士、キャンバスに油彩で同語反復のように服や絨毯を再現する原、超テンコ盛りにした油絵具の重量に耐えきれず斜めに展示する水戸部、回転するドラム缶にスーパーボールを押しつけて意外な音を出す西原など、楽しめる作品も多い。もっとも感銘を受けたのは、正方形の格子天井にボールペンでガリガリと引っ掻き傷をつけた村田の《原初的身体所作図》だ。システィーナ礼拝堂の天井画を描いたミケランジェロのように、実際に上を向いて掻いたのか、それとも天井板を下ろして掻いたのかは知らないが、かつては洋の東西を問わず天井も絵画の支持体であったこと、その天井画は天井を抜けて天上を目指していたことを思い出させてくれる。タイトルの《原初的身体所作図》は、「掻く」という行為が「描く」「書く」の起源であることを示唆している。思考も行為もいよいよ熟してきた。
2017/07/16(日)(村田真)