artscapeレビュー
山谷佑介「Into the Light」
2017年08月01日号
会期:2017/07/14~2017/07/18
BOOKMARC[東京都]
山谷佑介の新作は、いつもの路上スナップではなく、東京郊外の住宅地を、深夜に赤外線カメラで撮影したシリーズだった。赤外線カメラで撮影すると、色味がかなり変わって日常的な場面が非現実的な光景に変容する。だが、山谷の狙いはそこにではなく、むしろ「自己と他者との圧倒的な隔たりの中で、他者の領域に足を踏み入れる」というところにあるようだ。
たしかに、夜歩いていて、ふとこの家にはどんな人が住んでいるのだろうと思うことがある。写真で撮影したとしても、写りこむのは表層的な外観だけであり、苛立ちが募るばかりだ。それでも、彼が赤外線カメラでストロボを焚いて撮影した写真群を見続けていると、何かがじわじわと浮かび上がってくるような気がしてくる。「見えるもの」と「見えないもの」、あるいは「見ること」と「見られること」のあいだにそこはかとなく漂う、「妙な居心地の良さ」を感じさせる奇妙な気配こそ、山谷が今回のシリーズで見せたかったものなのではないだろうか。
表参道の洋書店の地下の会場には、大小20点の写真が並んでいた。そのままストレートにプリントした作品もあるが、黒い紙にプリントして闇の領域を強調したものもある。そういう微妙な操作は、展覧会と同時に発売された同名の写真集(T&M Projects刊)にも及んでいて、黒い用紙に印刷したページの間にノーマルなトーンの(といっても赤外線で変換された色味だが)写真のページが挟み込まれる構成になっている。そのあたりにも、山谷の写真家としての緻密な構想力がしっかりと発揮されていた。このような「小品」制作の経験を積み重ねつつ、次はぜひ大作にチャレンジしてほしいものだ。
2017/07/15(土)(飯沢耕太郎)