artscapeレビュー

杉戸洋 とんぼ と のりしろ

2017年11月15日号

会期:2017/07/25~2017/10/09

東京都美術館[東京都]

「ボストン美術館の至宝展」のついでに寄ってみたら、こっちのほうがはるかにおもしろかった。杉戸洋というとなんとなく頼りなさげな絵を描くいかにもいまどきの画家、というイメージしかなかったが、同展はそんなイメージを覆す、というか、もう絵なんかどうでもいいくらいすばらしい展覧会であった。まず会場入口のガラス扉に淡い色がつけられ、下りのエスカレーターの両脇にもピンクのアクリル板が立てられている。というのはあとで気づくのだが、これがおそらく微妙に気分に影響を与えるのではないかと思われる。順路に沿って見ていくと、三角屋根の家らしきものを描いたキャンバスが壁にポツンポツンと余裕をこいて並んでいる。凡百の画家がこういうシャレた真似をすると、そんな空間を無駄にするほど価値のある作品かと怒り出すところだが、これは明らかに違って空間のほうに価値を見出せるほど巧みな配置になっている。また、絵には額がついてたりついてなかったり、絵の裏にピンクのウレタンみたいなものが挟まってたり、床に何枚も重ねて置いてたり。絵の中身はどうでもいいというか、絵に描かれている内容を見せようというよりも、絵そのもののあり方、展示の仕方、絵のある空間全体を見せようとしているように思える。
下の階では、壁面と床の角に発泡スチロールのブロックを並べて布を被せたり、額縁代わりに段ボール箱に絵を入れてみたり、いろいろと試みている。通路のような展示空間には、さまざまなタイルを貼りつけた全長10メートルを超す壁(裏に三沢厚彦の彫刻が置いてあったりする)を建てている。タイルといえば、都美館を設計した前川國男はタイルの使用が特徴的なので、その前川に敬意を表してか、それともおちょくってかは知らないが、この建築から発想されたものに違いない。階下の吹き抜けの大空間の壁にも絵は飾られてはいるけど、大半は10号以下の小品で、おまけに絵と絵との間隔がずいぶん離れている。大空間にあえて大作を展示することなく小品を見せ、しかもそれがイヤミでなく説得力があってじつに心憎い。ああ見てよかった。

2017/10/06(金)(村田真)

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