artscapeレビュー
《MACRO ASILO》
2019年01月15日号
[イタリア、ローマ]
ローマの現代美術館《MACRO ASILO》を訪れた。オディール・デックの設計により、ビール会社の工場を改造したものである。外観は古いファサードを残しつつ、ガラスを用い、穏当なデザインだ。しかし、傾斜地に建ち、2つの街路に面するために異なるレベルからのアクセスをもち、内部は複雑な空間構成になっている。ただ、ちょっとやり過ぎのリノベーションにも思えた。ポストモダン、ハイテク、オブジェ風のヴォリュームをもつ講義室、マリオ・ボッタ風の階段室まわりなど、さまざまなスタイルを駆使し、全体としてはやや混乱気味の印象を受けたからである。ともあれ、気合いを入れた(入れ過ぎの?)巨大な現代建築とは言えるだろう。特別な企画展がないタイミングのせいか、見ることができた展示はいまいちだったが、キャットウォークがついた室内は天井が高く、巨大なインスタレーションを設置できる使い出のある空間だった。実際、壁を持て余すからなのか、作品を上下にぎっしりと並べていた。なお、同館のショップは、グッズばかりになって、まともに本がない日本の美術館と違い、とてもちゃんとしていることに感心させられた。
テスタッチオのエリアには、ステファノ・コルデスキ設計によるもうひとつのMACROが存在する。これは近年、リノベーションが進められている建築群を使い、大学の施設も入っている。訪問したときはオープンしている時間帯ではなかったため、内部を見ることはできなかったが、一帯は古典建築の上部をぐるりと囲む鉄のレールのネットワークが強烈な印象を与える。類例がない奇妙な造形を訝しく思ったが、じつは元屠殺場であり、レールは巨大な肉の塊を効率的に移動させるためのインフラが外部化したものだ(機能を失った今は装飾でしかないが)。以前、上海の郊外でも肉を処理するための機能的かつ立体的な内部空間をもつコンクリートの旧屠殺場を見学したことはあったが、これもある意味で凄まじいモダニズム的な造形である。
2018/12/29(土)(五十嵐太郎)