artscapeレビュー
ミケランジェロのリノベーション《ポルタ・ピア》《サンタ・マリア・デッリ・アンジェリ教会》「カンピドリオ広場」
2019年01月15日号
[イタリア、ローマ]
ローマで、ミケランジェロによる建築をいくつかまわった。今回、初めて外側から見たのだが、市門の《ポルタ・ピア》は、完全な新築ではなく、既存の構築物に対し、内側のファサードのみを彼がデザインしたものである。これは昨年亡くなったロバート・ヴェンチューリがポストモダンの理論を提示した名著『複合性と対立性』の表紙にも使われたことがある作品だけに、古典主義を崩した細部の意図を読み解く、楽しさに溢れている。具体的に気になった部分を挙げていくと、ラウレンティアーナの図書館前室にも通じる下部の持ち送り、ペディメントの割れ方、欠きとられた柱、変形したイオニア式の渦巻き、独創的なU字型、柱頭に組み込まれた小さな要石のような造形など、枚挙にいとまがない。
テルミニ駅の近くにあるディオクレティアヌスの浴場跡を改造した《サンタ・マリア・デッリ・アンジェリ教会》も、ミケランジェロが手がけたものである。外部はほとんど古代の廃墟のままだが、内部に足を踏み入れると、一転して派手な教会のインテリアが眼前に広がる。ミケランジェロの後にだいぶ手を加えられたらしいが、古代ローマ建築の空間を生かしたデザインは彼の発想だろう。その結果、通常の教会とは異なり、奥行き方向に伸びるのではなく、横に長い独特のプランになっている。また壮大な空間のスケール感は、古代のローマ建築に起因するものだ。よく観察すると、一部変わった細部もあり、これはミケランジェロのデザインなのかもしれない。
久しぶりの「カンピドリオ広場」も、ミケランジェロが改造した空間である。現在、階段と楕円の広場を中心軸とする、左右対称の構成をもつ都市デザインになっているが、もとは異なる姿だった。つまり、彼は大胆なリノベーションの名手でもある。「ミケランジェロ展 ルネサンス建築の至宝」(パナソニック 汐留ミュージアム、2016)に関わって以降、初めての訪問なので、前にはあまり気づかなかった細部の面白さがよくわかるようになった。その奇妙さにおいてピカイチである。建築における構成の逸脱や装飾の変容のさせ方については、石でつくられたものだが、かたちの重力の働きを感じさせるというテーマを意識しているようだ。
2018/12/29(土)(五十嵐太郎)