artscapeレビュー
平間至「平間至写真館大博覧会」
2019年01月15日号
会期:2019/01/05~2019/01/28
ニコンプラザ新宿THE GALLERY[東京都]
写真家・平間至の祖父の平間甲子は、1926年に宮城県塩竈市に平間写真館を開業した。その後、写真館は2代目の平間新に受け継がれるが、高齢になったために2003年に休業する。平間至は、日本大学芸術学部写真学科を1986年に卒業後に広告や雑誌を中心に活動するようになり、結局家業を継ぐことはなかった。その彼が、2015年に東京・三宿に平間写真館TOKYOを立ち上げるきっかけになったのは、2011年の東日本大震災だったという。震災と津波で塩竈も大きな被害を受け、家族のつながりを確認する手段としてのポートレートを撮影する写真館の役割をあらためて強く意識せざるを得なくなったのだ。
今回の「平間至写真館大博覧会」(企画・佐藤正子、会場構成・おおうちおさむ)には、2015~18年に平間写真館TOKYOで撮影された写真が並んでいる。それらを見ると、平間が、これまで写真館で撮影されてきた伝統的な肖像写真とはやや違ったスタイルで撮影していることがわかる。いわば、モデルの“自己表現”を引き出していくポートレートというべきだろうか。写真家があらかじめ指示を与えるのではなく、モデルたちが自発的に選び取ったポーズや表情が、そこにいきいきと定着されているのだ。平間が撮影にあたって一番大事にしているのは、「流れを止めないこと」だという。被写体を解放し、自由に振舞えるような雰囲気をつくり出すために、彼がこれまでミュージシャンや俳優をライブで撮影してきた経験に裏付けられた手練手管が総動員されている。結果的に、自由でのびやかなデジタル時代の新たなポートレートのあり方が、そこに形をとり始めているように感じた。
平間写真館TOKYOの活動は、むろんこれから先も続いていくはずだ。それは写真家・平間至にとっても重要な意味を持つ写真群になっていくのではないだろうか。
2019/01/18(金)(飯沢耕太郎)