artscapeレビュー
鈴川洋平「Apocalyptic Sounds」
2019年01月15日号
会期:2019/01/05~2019/01/22
銀座ニコンサロン[東京都]
鈴川洋平は1979年、新潟県生まれ。2005年に東京綜合写真専門学校を卒業し、2010年代以降に写真新世紀などいくつかの公募展で入賞を重ねてきた。
デジタル化によって画像の自由な加工・修整が可能になったことで、思いついたアイディアを精度の高い写真作品として落とし込めるようになった。鈴川が今回銀座ニコンサロンで発表した「Apocalyptic Sounds」では、「シュレーディンガーの猫」として知られる思考実験が作品のベースになっている。「シュレーディンガーの猫」というのは、「自分をとりまく小さな世界を一つの箱と仮定すると、そこには様々な可能性、選択肢が内在していて、それらの数の分だけ今とは違った僕が存在している」という考え方で、仮想世界、多次元宇宙といったかたちで多くの映画、小説、ゲームなどに取り入れられている。鈴川は、風景や事物をスナップショット的に撮影するだけでなく、それらを巧妙に加工し、彼なりの仮想世界を構築していく。そこで重要な役割を果たすのが、黒いキャップ、ボーダーシャツ、ジーンズの鈴川本人と思しき人物で、彼が狂言回しとなることで、物語がスムーズに展開していた。
発想も、それを写真化していく手続きも、会場のインスタレーションも、かなり高度なレベルに達している。ただどうしても、ありがちなアイディアをなぞっているという既視感が生じてしまうことも否定できない。この種の作品の場合、もう一ひねり、二ひねり加えていかないと現実世界と拮抗する、仮想世界そのもののリアリティを獲得するのはむずかしそうだ。さらにもう一段ギアを上げていってほしい。なお、本展は1月31日~2月13日に大阪ニコンサロンに巡回する。
2019/01/16(水)(飯沢耕太郎)