artscapeレビュー
小野祐次「Vice Versa - Les Tableaux 逆も真なり - 絵画頌」
2019年01月15日号
会期:2018/12/12~2019/02/02
シュウゴアーツ[東京都]
教えられることの多い展示だった。1963年、福岡県生まれ、フランス在住の小野裕次のコンセプトは単純である。美術館等に展示された絵画作品を、わざわざ窓を開けてもらって自然光で照らし出し、大判カメラで正対して撮影する。そうすると、絵画の表面に当たった光によって、画家が描いた図像はほぼ消失し、キャンバスのマチエールやその上に塗られた絵具の層などが、額縁とともにくっきりと浮かび上がってくる。かつて画家たちがその絵を描いた時と同じ光の条件を追体験することで、まさにそれが絵画として生成していくプロセスが、リアルな物質感を伴って引き出されてくるといってもよい。
観客は小野の写真作品に、なんとも判然としないぼんやりとした像を見るわけだが、それがルーベンスやホルバインやフェルメールやモネの名画であることを知っていても知らなくても、その視覚的体験そのものが充分に面白く魅力的だ。「二次元の絵画を二次元の写真に還元する」というシンプルな行為によって、絵画がほんの数ミリほどの絵具の層が生み出すイリュージョンであることが暴かれるだけでなく、結果として、それがじつに豊かな想像力の広がりを生み出すことに驚きつつ感動した。光そのものを撮影の対象とする写真作品は、これまでもたくさん制作されてきたが、小野の試みは物質としての絵画を被写体とすることで、その可能性をさらに一段階、拡張・増幅したものといえるだろう。絵画に対するオマージュであると同時に、銀塩写真の表現力を褒め称える行為でもあるこの連作は、今後もさらなる厚みを持つシリーズに成長していくのではないだろうか。
2018/12/19(水)(飯沢耕太郎)