artscapeレビュー
澤田知子「影法師」
2019年01月15日号
会期:2018/12/01~2019/12/28
MEM[東京都]
澤田知子の新作は映像作品である。東京・恵比寿のギャラリーMEMの会場では「影法師」と題する「4分31秒ループ」の作品が上映されていた。和紙のようなざらついた質感の白い平面に「影法師」がぼんやりとあらわれ、間をおいて少しずつ消えていく。シンプルな構成だが、さまざまな形の「影法師」があらわれては消えていく様には、観客のイマジネーションを刺激する奇妙な魅力が備わっていた。静止画像の写真作品では、その微妙な揺らぎが失われてしまうわけで、動画の映像作品にする必然性があったということだろう。
ところで、映し出される「影法師」の正体は澤田知子自身だと思うのだが、そのことはどこにも明示されていない。前作の「FACIAL SIGNATURE」(2015)から、澤田は「どうやって人は人を判断するのか」というテーマに取り組んでいるが、本作もその一環だという。たしかに、「影法師」はリアルな写真による描写よりも曖昧であり、不確定性が強まっている。その捉えどころのなさこそが、澤田が本作を制作した最大の理由だろう。結果的に、そのコンセプトが映像作品としてとてもうまく実現していた。
澤田の写真を通じての自己探求の営みも、もう20年以上続いている。そのあいだ、作品のクオリティをしっかりとキープし続けているのも驚くべきことだ。そろそろ、まとまった展示を見てみたいのだが、どこか名乗りをあげる会場はないのだろうか。
2018/12/13(木)(飯沢耕太郎)