artscapeレビュー

幸本紗奈「unseen bird sing」

2022年08月01日号

会期:2022/07/09~2022/07/23

東塔堂[東京都]

幸本紗奈が2019年に刊行した『other mementos』(Baci)はクオリティの高い、とてもいい写真集だった。今回展示された「unseen bird sing」は、それに続く作品ということになる。だが、出品されている写真は最近のものだけではなく、かなり前、あるいは『other mementos』の時期に撮影されたものも含んでいる。というより、幸本の作品世界は、あまり時間的な経過には関係なく、むしろさまざまな時空の断片を拾い集め、組み立ててゆくものなので、過去作かどうかはあまり問題にならないのではないだろうか。

前作と同じく、今回もまたプリントのクオリティへの強いこだわりを感じる。ブルーのトーンを基調として、赤や緑を染み込ませるように配置し、手が届きそうで届かないような夢のような感触を与えている。鏡、水、鳥、植物などのイメージを相互に関連づけていく取り扱い方も、さらに洗練されてきた。

だがこのままだと、何を伝えたいのか曖昧なまま、居心地のよい世界に安住することになりかねない。幸本に必要なのは、個々の写真を結びつけ、つなぎ合わせていく骨格=テキストなのではないだろうか。展示を見て、写真が言葉を欲しているように見えてきてならなかった。幸本には文学への関心もあり、タイトルの付け方ひとつを見ても、言葉をしっかりと使うことができる能力を備えていることがわかる。むしろ断片的なものでいいから、各写真とテキストとを並置するような展示、あるいは写真集をぜひ見てみたい。

2022/07/16(土)(飯沢耕太郎)

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