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ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで

2022年08月01日号

会期:2022/07/16~2022/10/16

東京都現代美術館[東京都]

「土地に痕跡を残さない建築をつくりたい」。本展を観ていてハッとした言葉がこれだった。ヴィトラから復刻家具が発売されるなど、ジャン・プルーヴェは現代においても世界的に人気の高いデザイナーのひとりである。もちろん家具のみならず、建築でもその手腕を発揮した人物であることは知っていたが、本展を観て改めて、そのものづくりへの独特な姿勢を痛感した。「家具をつくることと家を建てることに違いはない。実際、それらの材料、構造計算、スケッチはとても似通っている」という言葉が証明するように、プルーヴェにとって家具と建築との間に境はなかったようだ。つまり家具は小さな建築であるし、建築は大きな家具である。だからこそ、「土地に痕跡を残さない建築」という発想が生まれたのだろう。


展示風景 東京都現代美術館 ©︎ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3924


実際にプルーヴェが設計した住宅のほとんどが、解体・移築が可能な建築物だった。しかも第二次世界大戦後、母国フランスの戦後復興計画の一環として複数のプレファブ住宅を考案したというから、住宅の工業化にいち早く目を付けていたことがわかる。戦中はレジスタンス運動に積極的に参加したという経歴からして、プルーヴェは庶民が安心して暮らせる住宅を大量に広めることに価値を置いていたのだろう。とはいえ、それは安かろう悪かろうの類ではない。人間工学に基づくシンプルで合理的で美しい形を追究し続け、それを独自の構造で成立させようと試みてきた。「構造の設計こそが建築の設計である」という根幹部分は建築も家具も同じで、そこにプルーヴェらしい美意識を見ることができる。


展示風景 東京都現代美術館 《「メトロポール」住宅(プロトタイプ、部分)》Lourence and Patirick Seguin collection ©︎ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3924


したがって家具のみならず建築物も同様に展示されていた本展は、非常に見応えがあった。地下2階の広い空間には《F 8×8 BCC組立式住宅》が建っており、中に入ることはできないが、上から横から眺めることができた。また《「メトロポール」住宅(プロトタイプ)》は「ポルティーク」と呼ばれる門型フレームの構造体とファサードが別々に展示されており、組立式住宅であることが強調されていた。建築の展示というと、どうしても図面や模型、写真などで紹介されることが多いが、こうして生の部材を目にすると迫力がある。おかげでプルーヴェの素材への執着や構造に対する探究心などを肌で感じることができた。


展示風景 東京都現代美術館 《F 8×8 BCC組立式住宅》Yusaku Maezawa collection ©︎ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3924



公式サイト:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/Jean_Prouve/

2022/07/15(金)(杉江あこ)

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