2022年11月15日号
次回12月1日更新予定

artscapeレビュー

第24回亀倉雄策賞受賞記念 大貫卓也展「ヒロシマ」

2022年08月01日号

会期:2022/07/12~2022/08/20

クリエイションギャラリーG8[東京都]

手に持って振ると、小さな容器の中で白い粉がふわっと舞い上がり、ゆっくりと落ちていくスノードーム。粉雪に喩えたその幻想的な景色を眺めることで、人々は幸せを静かに感じる。が、もしもそれが黒い粉だとしたら……? 白を黒に反転させるだけで幸福が不幸の象徴になる、その鮮やかな手法に舌を巻いた。


展示風景 クリエイションギャラリーG8


アートディレクターの大貫卓也がデザインした平和希求キャンペーンポスターおよび関連制作物「HIROSHIMA APPEALS 2021」が、第24回亀倉雄策賞を受賞した。私はこのポスター自体は昨年に見た覚えがあるのだが、受賞記念展である本展は想像以上に圧巻だった。会場の床一面に黒い粉が敷き詰められていて、ドームの中の景色を自らたどるような演出がなされていたのだ。「HIROSHIMA APPEALS(ヒロシマ・アピールズ)」は、日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)と広島国際文化財団、ヒロシマ平和創造基金が、核兵器廃絶や平和の尊さをグラフィックデザインを通して世界に呼びかける共同プロジェクトである。毎年、JAGDA会員ひとりが新しいポスター1点をボランティアで制作している。つまりこのポスターで描かれた黒い粉に喩えたものとは、原子爆弾が落とされた後に降ったとされる放射能を含んだ「黒い雨」である。あるいは投下直後に舞い上がった「キノコ雲」の煙かもしれない。そうした恐ろしい想像が頭を巡る。そしてドームの中で黒い粉を浴びるのは、平和の象徴である白い鳩だ。これほど明快で、強烈なメッセージがあるだろうか。さすが、広告業界で名を挙げたクリエイターらしい手腕であると痛感した。


展示風景 クリエイションギャラリーG8


しかも「HIROSHIMA APPEALS 2021」はポスターのみで完結しているわけではない。最新のAR技術を採用していて、スマートフォンをポスターにかざすことで黒い粉が舞い上がる映像を見ることもできる。「原子爆弾の脅威を今の若者へ歴史としてではなく、ライブ感をもって伝えること」が、希望のある未来を描くことになると考えたと大貫卓也はメッセージを寄せている。本展では奥の展示室で映像が紹介されており、音楽との相乗効果もあって迫力満点だった。数羽の白い鳩が優雅に舞いながら、こちらにどんどん近づいてくる。最後には画面に大きく映し出された鳩にじっと見つめられ、思わずたじろいてしまう。それは平和を脅かす人間に裁きを下すような顔にも見える。奇しくも世界的に核の脅威が再認識されている現在、このポスターの重みが増している。


展示風景 クリエイションギャラリーG8



公式サイト:http://rcc.recruit.co.jp/g8/exhibition/2207/2207.html

2022/07/15(金)(杉江あこ)

artscapeレビュー /relation/e_00061717.json l 10178105

2022年08月01日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ