artscapeレビュー

「A Quiet Sun」田口和奈展

2022年08月01日号

会期:2022/06/17~2022/09/30 ※予定

メゾンエルメス8・9階フォーラム[東京都]

太陽の光は否応なしに写真を劣化させ、なすがままにしておけば、いつかイメージを蒸発させる。田口和奈は本展で自身が収集したファウンドフォト、ファウンドフォトになった絵画や立体作品などがモチーフとなった写真作品「エウリュディケーの眼」シリーズ、その他作品を多数出展している。ガラスが全面を覆う銀座メゾンエルメスの会場には、やわらかな外光が降りそそいでいた。

では、それぞれはどう置かれているのか。会場には絵画の複写のファウンドフォトが、直射日光を避けるようにしてガラスケースに鎮座し、額装されたシリーズ作品「エウリュディケーの眼」もまたガラス窓に対して垂直に、あるいは陽を背にするように設置されていた。しかし、そのなかで、ペラっと壁に直貼りされた作品群は光を目一杯浴びていた。それが必要なことであるかのごとく。

複写が無限のイメージをつくりだす様がまるで惑星の創世のような《11の並行宇宙》(2019)や《A Spirit Conservation》(2022)といった着彩された図版が複写された作品はいずれも、写真は撮影によって無限の造形が可能であること、撮影された絵画は写真なのではないか、と投げかけてくる。あるいは、それらが紙なり本なりウェブサイトなりに定着した時点において、個別の生を歩むのではないかと。

では、ここでの作品にとっての光とは何なのかと言うと、経年の契機であり、個別の瞬間、瞬間に存在してきた証を写真に付与するものであり、このような意味において、田口の壁に直貼りされた作品群は特に、複写された瞬間に作品から乖離して別の生を始めてしまう、生成する存在としての写真なのだろう。

なお、本展は無料で観覧可能。


「A Quiet Sun」制作風景(2022)
A scene from the making of "A Quiet Sun" | 2022
Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès


《エウリュディケーの眼 #5》(2019-22)ゼラチン・シルバー・プリント、14.7x10.5cm
the eyes of eurydice #5 | 2019-2022 | Gelatin silver print | 14.7x10.5cm
Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès



公式サイト:https://www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza/forum/220617/

2022/07/20(水)(きりとりめでる)

artscapeレビュー /relation/e_00061722.json l 10178115

2022年08月01日号の
artscapeレビュー