artscapeレビュー

李晶玉展「SIMULATED WINDOW」

2022年08月01日号

会期:2022/06/27~2022/07/09

ギャラリーQ[東京都]

この春、原爆の図丸木美術館で作品を発表したばかりの李による同題の個展。ギャラリーからいただいた丸木美術館のカタログを見ると、どうやら同じ作品が出ているようだ。丸木美術館は足の便が悪くなかなか行きづらいので、見逃した者にとってはありがたい

まず目に入るのが、180×450センチの大作《Ground Zero》。東京のパノラマ俯瞰図の上に赤い球体が浮き、その上(奥)に富士山が遠景として描かれている。球体の下には同心円が幾重にも広がり、赤球が核爆発であることを示唆する。つまりこれは東京上空で核爆発が起きる瞬間を描いたもの。赤球の下(グランド・ゼロ)には黒く塗り潰された領域があるが、これは皇居か。なるほど、グランドゼロとはあらゆる情報が発信されないブラックホールというわけだ。だがよく見ると、赤球の真下は皇居ではなく、やや南西方向にずれている。かつて参謀本部があった三宅坂あたりであり、近くには国会議事堂を有する日本の中枢部がグランド・ゼロに想定されているのだ。赤球の背景は白く抜かれているので日の丸に見え、その真上に富士山がそびえるというまるで日本な構図。ちなみにこの作品は、紙に鉛筆で描いた原画を2倍に拡大したデジタルプリントに着彩したもの。

ほかに《Enora Gay》と《Dome》という対作品もある。前者は広島に「リトルボーイ」を投下したB-29のコックピットを描いたもので、後者は広島の原爆ドームを内部から見上げたところ。どちらも鉄骨に覆われた半球状の形態をしているが、一方は落とした側(加害)、もう一方は落とされた側(被害)という真逆の視点から捉えているのだ。この両者が「重なったように見えた時に視点を得たような感覚があった」と作者は述べている。こうしたある意味恐るべき視点の発見を、緻密でクールな描写によって表わしているところが気持ちいい。

★──原爆の図丸木美術館「李晶玉 SIMULATED WINDOW」動画公開 https://marukigallery.jp/news/rijongok_movie/

2022/07/08(金)(村田真)

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