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記者発表会「岡本太郎、新発見!」

2022年08月01日号

渋谷ヒカリエ 8/COURT[東京都]

「このたび、従来の岡本太郎史を塗りかえる可能性が高い重要な発見がありました。つきましては、その詳細について、新たに発見された作品を会場でお見せして ご説明する記者発表会を開催いたします」とのメールが届いた。「岡本太郎史を塗りかえる」「重要な発見」というから、東京美術学校の入試デッサンか、戦時中に描かされた戦争画でも見つかったのか? いやいや、どうせ1カ月後に迫った「展覧会 岡本太郎」の煽り、大した作品じゃないんじゃないかなどと思いつつ、会場へ。

まず、岡本太郎記念館館長で同展のスーパーバイザーを務める平野暁臣氏が概要を説明。発見されたのは3点で、いずれもパリ時代(1930-40)に描かれた初期の抽象画。太郎のパリ時代の作品は帰国時に持ち帰ったが、すべて戦災で焼失したため、現在残っている《空間》《傷ましき腕》など数点はいずれも戦後に再制作されたもの。1934年制作とされるオリジナルの《空間》以前の3、4年間の作品は現物はおろか印刷物でも確認されておらず、空白の期間となっていた。今回見つかったのは、岡本太郎芸術の原点ともいうべきその時代に描かれたとおぼしき最初期の抽象画なのだ。この発見は、岡本太郎独特のスタイルがいかに確立されたか、パリの一青年がいかに芸術家になったかを解き明かしてくれるミッシングリンクといってもいい。

3作品の発見の経緯はこうだ。1993年、パリのシテ・デ・フュザンというアトリエ村のゴミ集積場に捨てられていた1点をデザイナーが拾い、翌年そのデザイナーが同じアトリエから出た2点をオークションで落札。そのうちの1点に「岡本太郎」の署名を見つけ、戦前に出たカタログも参照して3点とも岡本作品と確信したという。今回、展覧会開催を契機に3作品を日本に持ち込んで鑑定を行ない、ほぼ岡本太郎の作品に間違いないという結論に達した。

てなわけで、いよいよカーテンの裏に隠された3作品をご開帳。



記者発表会の様子。右から、吉村絵美留、平野暁臣、山下裕二の各氏[筆者撮影]


現われた作品は、いずれもモノクロームの背景にどこか《空間》(1934/54)を思わせる有機的形態が浮かび上がる構成だが、なんとも無骨でお世辞にもうまいとはいえない。「岡本太郎史を塗りかえる」「重要な発見」というにはいささか頼りないが、しかし見方を変えると、《空間》以前の暗中模索期の習作ということであれば納得できるし、岡本が日本に持ち帰らなかった理由もうなずける。つまり半端であるがゆえに真実味も高いのだ。

平野氏はこれらが岡本作品である可能性は95パーセントとしたが、続いて登壇した美術史家の山下裕二氏は99パーセント、絵画修復家の吉村絵美留氏は100パーセント近いと証言。絶対100パーセントとは断言できないものの、ほぼ間違いなく岡本作品であるということだ。だいたい日本ならともかく、フランスで贋作がつくられるほど岡本太郎は有名じゃないし。平野氏は、逆に贋作だとしたらものすごく手の込んだ詐欺で、拍手したいくらいだと述べていた。現物を見て確かめたいという人は、大阪中之島美術館(7/23-10/2)、東京都美術館(10/18-12/28)、愛知県美術館(2023/1/14-3/14)の「展覧会 岡本太郎」へ。

2022/07/08(金)(村田真)

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