artscapeレビュー
小山泰介「entoropix」
2009年06月15日号
会期:2009/04/24~2009/05/19
G/P GALLERY[東京都]
雨の日に透明傘をさして恵比寿のNADiff A/P/A/R/Tへ。小山泰介は昨年写真集『entropix』(アートビートパブリッシャーズ)を刊行するなど、このところ存在感を増している若手写真家。都市の表皮を引きはがすようにデジタルカメラで切り取り、そのまま大きく引き伸ばしてプリント、あるいはプロジェクトする。面全体にオールオーヴァーで広がったイメージは、色と質感のみに抽象化され、視神経をダイレクトに刺激する。以前はその手続きが不徹底で、ありきたりの意味の断片を不用意に呼び起こすこともあったのだが、その純度が急速に増してきた。
今回の展示のメインになる「Rainbow Form」のシリーズに、彼の現在の到達点がよくあらわれている。ハレーションを起こしそうに鮮やかな、レインボー・カラーの印刷物の手前にアクリル板を置き、その擦り傷やテープの痕ごと撮影した作品である。これまでは個々の作品が単体で発表されることが多かったが、シリーズ化することで彼のやりたいことがはっきり見えてきた。こうなれば、純粋なカラー・チャートにまで抽象化を進めていくしかないだろう。ただし、そういう試みはゲルハルト・リヒターやジェームズ・ウェリングが、既にかなり徹底しておこなっている。小山にはなるべく早めにそこまで到達し、さらにその先をめざしていってほしい。
2009/05/06(水)(飯沢耕太郎)