artscapeレビュー
ホンマタカシ「TRAILS」
2009年06月15日号
会期:2009/05/08~2009/05/30
GALLERY 360°[東京都]
ホンマタカシはこの新作で、雪の上に点々と残る動物の血──狩猟の痕跡(TRAILS)を撮影している。ホンマはこのところ、都市から自然へとテーマ系を移行させつつあるが、それは別に彼の気まぐれではなく、時代の奥に潜む自然の生命力、感応力を希求する志向を鋭敏に察知しているからだろう。この「TRAILS」にも、人知を超えた魔術的な力に迫ろうとする意欲が感じられる。
ただ、雪山に実際に踏み入り、狩人のように獲物の血の痕を追っているときに彼が感じたであろう、ほとんど性的なエクスタシーに近いはずの昂揚感が、写真にきちんとあらわれているかといえば、そうでもない。ホンマの作品を見る時いつも思うのは、彼が みとった何か大きなものが、作品化のプロセスにおいて弱々しく、小綺麗にまとまってしまうということだ。今回の展示でも、透明プラスチックのケースに、わざわざ写真を2枚にずらしておさめるような微妙な操作が、あまりうまく機能していないのではないか。なお、マッチアンドカンパニーから同名の写真集も刊行されている。
2009/05/15(金)(飯沢耕太郎)