artscapeレビュー
坂牛卓『建築の規則──現代建築を創り・読み解く可能性』
2009年06月15日号
発行所:ナカニシヤ出版
発行日:2008年6月19日
坂牛卓さんに直接お会いするしばらく前に、南泰裕さんからいただいた。実は読み始めるまでは、タイトルの重さと目次の厳格さに、ちょっと恐れをなしてしまい、なかなか手がつけられなかった。構成が厳密であるほど、全体性を想像しながら読む必要があるので、なかなかその心構えができなかったのだ。しかし実際のところ、本書はふと読み始めてみると、意外なほど読みやすい本であることが分かってきた。それほど部分と全体との関係性を深く考えずとも読み進めていける。いってみれば、ビッグネスの論理のように、形式と内容が厳密には対応していない。しかし、そのことによって多くの解読口が、外部へと開かれているというオープンな本なのである。
本書は坂牛氏の博士論文をベースにしているが、その構造はワインのテイスティングに発想を得ているようだ。建築とワインというと、かなり距離があるようだけれども、ワインには「甘い・辛い」「重い・軽い」といったようなモノサシが多様にあり、そのどちらの価値が高いわけではない。その評価方法は建築とも共通性があるという。ワインの指標と同じように、建築から9つの設計指標を抽出し、それが坂牛氏のいう9つの「建築の規則」となっている。だから9つの規則のどこから読み始めてもよいし、各々は独立していて他の部分を読まなければ理解できないというわけではない。もちろん本書は簡単な本ではない。坂牛氏の長年の探求の蓄積が高密度に展開されており、初学者でなくとも読み進めるのが難しい部分も多くあるだろう。しかし、そんなことを気にせずどんどん飛ばしていっても読める本なのである。個別のどの章や節から読み始めても、そこから多くの知見を得られる。いってみれば線的に読むよりも平面的に読むことを要求しているような本であり、テキストの構造としても興味深い。
2009/05/24(日)(松田達)