artscapeレビュー

吉永マサユキ『若き日本人の肖像』

2009年06月15日号

発行所:リトルモア

発行日:2009年5月30日

吉永マサユキのこの写真集はとてもいい。何がいいかといえば、「集合写真」というシンプルきわまりない、だが実に大きな可能性を秘めた方法論をこれだと定め、まっすぐ、迷いなく、10年以上にわたって取り組んでいること。これだけの量の写真を、被写体となる人物たちとコミュニケーションをとりつつ撮り続けるのには、途方もないエネルギーが必要となるだろう。それだけでなく、それがどこをどう切り取っても、吉永マサユキという写真家以外には絶対に不可能なレベルにまで達していることが凄い。
さまざまな状況において、さまざまな日本人が集団として彼のカメラの前に並んでいる。それを衒いなく撮影しているだけだが、そこから湧き出してくる情報の質はただ事ではない。怪しさも、みすぼらしさも、能天気さも全部ひっくるめて、これはたしかに『若き日本人の肖像』以外の何ものでもないと納得させる説得力が、ページの隅々にまで満ちあふれている。まぎれもなく彼の代表作となる写真集だろう。
清水穣が写真集の解説で、吉永の写真について「過剰な男のアイデンティティから、日本男『性』という典型を形成すると、恐ろしくも可笑しいエロスが漲る」と喝破しているが、これはまったく同感。いうまでもなく、この「エロス」は性的な意味合いだけではなく、自己と他者の境界線すら破壊してしまう、噴出する生のエネルギーの波動のことだ。

2009/05/15(金)(飯沢耕太郎)

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