artscapeレビュー

『アルゴリズミック・デザイン──建築・都市の新しい設計手法』

2009年06月15日号

発行所:鹿島出版会

発行日:2009年3月30日

日本建築学会において、建築家、計画・構造分野の研究者が集まってできた、アルゴリズミック・デザインに関する本。『10+1』No.48のアルゴリズム特集が批評的にアルゴリズムを追っているのに対して、こちらはアルゴリズムの技術的な側面により焦点を当てている。そもそも「アルゴリズム」は、まだ建築界では生まれて間もない言葉。しかし、本書では過去にさかのぼって、さまざまな建築作品や研究成果をアルゴリズムというキーワードのもとに星座のように再配置する(五十嵐太郎)。
渡辺誠、磯崎新、伊東豊雄、また若手では石上純也、松川昌平らの作品がアルゴリズムという観点から説明される。しかし本書が特に興味深いのは、作品紹介をするだけではなく、今後、建築や都市に適用可能なアルゴリズム関連の技術を紹介している点だと思われる。セルオートマトン、カオス、フラクタル、自己組織化など複雑系科学から感性工学にいたるまで、新しい研究の可能性が紹介される。すなわち表面的なデザインのための道具ではなく、建築や都市を考える新しい思考の枠組みの新しい段階としてアルゴリズムを示しているという意味で、本書の射程は非常に長い。項目一つひとつは数ページで読みやすく、数々のヒントが隠されている。

2009/05/28(木)(松田達)

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