artscapeレビュー
森口将之『パリ流 環境社会への挑戦──モビリティ・ライフスタイル・まちづくり』
2009年06月15日号
発行所:鹿島出版会
発行日:2009年5月30日
現在、モビリティという側面から急変貌しているパリを、自動車ジャーナリストである森口将之氏が描いた。パリは2007年にヴェリブと呼ばれるレンタサイクルを導入し、これまで市内でほとんど見なかった自転車が一気に普及した。すでに2万台の自転車と1,000カ所近くのステーションが設置されているという。2007年にはもう一つ大きな変化が起こっており、本格的なカーシェアリング・システムが動き出した。カーシェアリングは、タクシー(短距離)とレンタカー(長距離)の間を埋めるもの(中距離)として位置づけられることによって、その登場に必然性も与えられた。さらにトラムの復活やセーヌ川ビーチなどの試みもあわせ、近年のパリの環境都市への変貌を追跡する。フランスはこれまで環境に対して必ずしも積極的な動きを見せる国ではなかった。1992年のリオデジャネイロにおけるアジェンダ21宣言に対しても反応は鈍かった。しかしパリでは、ベルトラン・ドラノエが2001年に市長に就任してからさまざまな変化が起こっている。本書はその成果をモビリティとエコを中心とした視点からまとめたものともいえるが、パリ以外の地方都市などフランス全体の動きにも触れられており、示唆が多い。
ヨーロッパの都市に住むと、なんと変化の遅いことだろうと、多くの日本人は感じるかもしれない。スクラップ・アンド・ビルドの激しい日本の都市は、表面的にはめまぐるしく変化しているように見えるけれども、一方で都市全体の構造的な変化は起こりにくい。しかし、ヨーロッパの都市では時にこういう大胆な変化が起こる。ストラスブールにトラムが導入されたときも、たった15年程度で都市全体が生まれ変わったという。もちろん、石造りの旧市街地を持つヨーロッパと、日本の都市を簡単に比較することはできない。しかし、ここで触れられた変化は交通機関に関するものであり、日本の都市が参考にできる点は多いのではないだろうか。
2009/05/30(土)(松田達)