artscapeレビュー
「ヤノベケンジ─ウルトラ」展
2009年07月01日号
会期:2009/04/11~2009/06/21
豊田市美術館[愛知県]
ヤノベケンジの新作《ウルトラ─黒い太陽》が発表された。円形のプールの中に巨大な球体がひとつ。その表面には放射状に伸びる鋭い突起物と円状の穴がランダムに続いている。その穴を通して内部を見てみると、球体の中心にテスラ・コイル(共振変圧器)が内臓されているのがわかる。見どころはこのテスラ・コイルによって人工的に稲妻を発生させるイベントで、時間を限定して一日に数回催されていた。強力な電磁波が発生するという物々しいアナウンスが緊張感を高めるが、じっさいのパフォーマンスはいささか拍子抜けするものだった。瞬間的に発生する稲妻のフォルムは思っていたほどではなかったし、その雷鳴も度肝を抜かれるほどではなく、これではそこらのノイズ・ミュージックにすら太刀打ちできないのではないかと気をもんでいたら、ほんの数十秒で終わってしまった。「黒い太陽」という詩的な名前に負けていたからなのか、あるいはその物体としての強度のほうが稲妻より勝っていたからなのか、どちらにしても存在の根底を揺さぶるほどの衝撃は感じられなかった。これでは、観客に向かって炎を噴射する《ジャイアント・トらやん》のほうが、よっぽど危険かつ滑稽であり、だからこそ魅力的といえるのではないか。ちなみに、学生を大学にリクルートするような映像作品も発表していたが、これにも興醒めさせられた。
2009/06/13(土)(福住廉)