artscapeレビュー
室伏鴻×ベルナルド・モンテ×ボリス・シャルマッツ『磁場、あるいは宇宙的郷愁』
2009年07月01日号
会期:2009/05/27
慶應義塾大学日吉キャンパス 来往舎イベントテラス[神奈川県]
昨年も同じ時期にこの会場でソロ作品『quick silver』を上演した室伏鴻が、今回はメキシコとフランスのダンサーをともなって現われた。室伏の真骨頂は即興にある。またしばしばそれは1人ないし2人のパートナーとのバトルである場合が多い。恐らく「舞踏はハイブリッド」を標榜する室伏にとって、共演者とのバトルには、思いもよらない〈複数性に満ちた場〉に自分をそして観客を誘いうるといった計略があるのだろう。タイトルの抽象性に対して、舞台空間はじつにダイナミックかつめりはりのあるものだった。テーブルに座る男三人がティッシュを引き出しながら顔に詰めてゆくシーンなどコミカルな場面が目立った。ずんぐりむっくりなモンテや若さと背の高さで凶暴に見えるシャルマッツにまじって、室伏はいつも以上に自分のフレームを変形させ、より幼児的な振る舞いを見せてゆく。そう、シャルマッツはじつに危なっかしくて、実際、室伏を蹴り飛ばしたり、テープでぐるぐる巻きにしたりしたのは印象的だった。そんななかでぼくのなかに浮かんだのが「エモーショナル」という言葉で、強烈な仕方で肉体の現前をアピールしようとするのは、最近よくみかけるあり方だな、と思うのだけれど、とりわけ即興的な空間に現われる「エモーショナル」な振る舞いは、パフォーマーの暴走振りについていけないという気持ちを観客に起こさせる。ぼくはそう思う。乱暴に振る舞うパフォーマーたちにいわば母親のような心持ちで見つめてあげられればよかったのかもしれないのだけれど、ぼくにはそれができなかった。
2009/05/27(木村覚)