artscapeレビュー
飴屋法水『3人いる!』
2009年09月01日号
会期:2009/07/31~2009/08/12
リトルモア地下[東京都]
東京デスロックの多田淳之介の脚本、構成・演出は飴屋法水。自分以外に自分を名のる人間が部屋に現われる。さらにもうひとり自分を名のる存在が現われ、一層、謎が深まる。きわめてシンプルな基本設定。ただし、なぜ自分が2人(3人)いるのかの謎は、延々と解けない。演劇の本質を存分に遊んでいる脚本に思えた。役柄とは関数のように入れ替え可能である。誰がどの役かということは、見る者が了解できればそれで成立するわけで、舞台上のこのひとは誰かということは約束事でしかない。頻繁に出てくる「あなたは誰よ!」の言い合いや相手に対する指さしは、暗黙の内に演劇を成立させている構造そのものに映る。飴屋の演出は、そうしたメタ演劇、メタ役柄を語る演劇に、役者のアイデンティティを折り重ねていた。ぼくが見た初回には(24回公演で3人一組の12チームが次々と上演した)、韓国人のアンハンセムが出ており、彼女の韓国人としての生きる不安が、戯曲のなかに織り込まれていた。
2009/07/31(金)(木村覚)