artscapeレビュー
「アトミックサンシャイン」沖縄展の検閲に抗議する美術展
2009年09月01日号
会期:2009/07/20~2009/08/01
ギャラリーマキ[東京都]
インディペンデント・キュレイターの渡辺真也が企画した「アトミックサンシャイン」展の沖縄県立美術・博物館における巡回展で、出品作家である大浦信行の《遠近を抱えて》が同館の牧野浩隆館長の判断によって展示から外された事件にたいして、美術関係者が抗議のために開催した展覧会。《遠近を抱えて》のほか、事件に反応した美術家たちが作品を持ち寄り展示するとともに、会期中、識者たちによるトークイベントやシンポジウムが催された。《遠近を抱えて》は、かつて富山県立近代美術館によって同じように検閲され、いわゆる「天皇コラージュ裁判」に展開したが、時を経てまたもや同じ問題が繰り返されたわけだ。結局この20数年あまりのあいだ、日本の美術制度はまったく成熟していなかったのであり、今後もその見込みはきわめて薄いというほかない。その裁判の原告の一人だった美術評論家の針生一郎がこの日のトークで「私はもう長くはないから、あとはみなさん自分で考えてください」という旨の発言をしていたが、これは批評の放棄というより、じつにまっとうなメッセージである。これから貧しい時代を豊かに生きなければならない私たちにとって、切迫した問題なのは、貧しい時代を豊かにする「政治」より、豊かに生きる「想像力」だからだ。平たくいえば、功名心と自己保身、利権とイデオロギーでがんじがらめに束縛された「政治」に乗ったところで、お先真っ暗であることは眼に見えている。むしろ、いかにアホクサイ世の中であったとしても、その中でいかに楽しく生きることができるのか、それを想像的に考えることが私たちにとっての幸福をもたらすのではないだろうか。
2009/08/01(土)(福住廉)