artscapeレビュー

カオス*ラウンジ(夏)

2009年09月01日号

会期:2009/08/18~2009/08/30

ビリケンギャラリー[東京都]

出展者でもある藤城嘘がpixiv(イラストを投稿・閲覧できるウェブサービス)を中心にネットを通じて集めた40人前後の作家たちによる展示。今年3月に国分寺で行なった同展の第2弾。pixiv経由だけあって作品はイラストやマンガの類が多いのだけれど、キャンバスを用いた美術的なものも少なくない。技量も知識もある、そのうえで、あえて落書きの手つきで少女を描く作家たち。少女を犯すより少女と同化したいという80年代以降のおたく的精神の恐らく最良の部分といえるものが、小さな画面で生き生きと暴れている。亡き富沢雅彦という名の同人誌ライターは85年出版の『美少女症候群』のなかで、マイナーな同人誌作者たちは「ロリコン」と自己規定することでマスとなりえたと述べている。性を介する共同幻想が、それぞれで閉じこもっていたおたくたちが繋がることを可能にしたのだった。ところ狭しと飾られた本展の作品群のほとんどすべてに描かれている少女の像はまさにそんな力を発揮していて、作家たち同士、また彼らと観客を繋ぐ〈今日のヴィーナス〉といった存在感に満ちている。では、コミュニケーション・ツールとなった「少女」たちは、具体的に何を可能にしてゆくのだろう。少女の体を借りて叫んだ声は、いまのところ時にイライラしあるいはわくわくしている描き手の実存を表明しているのだが。

2009/08/21(金)(木村覚)

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