artscapeレビュー
2017年06月15日号のレビュー/プレビュー
プレビュー:國府理「水中エンジン」redux
アートスペース虹[京都府]
2014年に急逝した國府理の《水中エンジン》(2012)は、國府自身が愛用していた軽トラックのエンジンを剥き出しにして巨大な水槽の中に沈め、稼働させるという作品である。動力源となる心臓=エンジンが発する熱は、水槽内で揺らめく水の対流や無数の泡を発生させるが、エネルギーに転換されることなく、水槽を満たす水によって冷却され、制御される。部品の劣化や浸水など頻発するトラブルの度に一時停止とメンテナンスを施されて稼働し続ける不安定で脆い姿は、発表の前年に起きた原発事故に対する優れたメタファーとして機能する。同時にそれは、「自律した作品の完成形」への疑義をも内包する。
國府の創作上においても、「震災後のアート」という位相においても重要なこの作品は、インディペンデント・キュレーターの遠藤水城が企画する再制作プロジェクトにおいて、國府と関わりの深いアーティストやエンジン専門のエンジニアらの協力を得て、2017年に再制作された。作業現場となった京都造形芸術大学内のULTRA FACTORYでの一般公開の後、小山市立車屋美術館での「裏声で歌へ」展に出品され、オリジナルが発表されたアートスペース虹にて5年ぶりに展示される。会期は前期と後期に分かれて異なる展示形態を取り、会期中の毎週土曜には、企画者の遠藤、再制作に携わった技術者、批評家などによるトークイベントを予定。また、クロージングイベントとして、記録映像の上映会やライブも予定されている。再制作品、記録映像、トークといった多角的な検証を通じて、《水中エンジン》が持つ今日的な意義と批評的射程に向き合う機会となるだろう。
会期:
前期=2017/07/04~2017/07/16
後期=2017/07/18~2017/07/30
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2017/05/31(水)(高嶋慈)
鈴木のぞみ個展 Mirrors and Windows
会期:2017/05/22~2017/06/03
表参道画廊[東京都]
窓や鏡に焼きつけた写真を10点ほど展示。窓と鏡は外界を見透す、または写し出すことから、しばしば絵画や写真のたとえとして用いられてきた。鈴木はその窓と鏡に外界のイメージを定着させることで「たとえ」を固定化しようとする。窓ガラスには実際にその窓から見えた風景が焼きつけられ、手鏡にはそれを使っていた人物の顔、壁掛けの鏡には室内風景がプリントされる。窓や鏡が長年見続けてきた光景が、こうして永遠に焼きつけられたわけだ。窓ガラスの風景はニエプスの最初の写真を想起させ、鏡はダゲレオタイプの銀板を思い出させる。そして窓にも鏡にも枠(額縁)がはめられていることも偶然ではないだろう。絵画出身の作者らしい発想だ。
2017/05/31(水)(村田真)
Hani Dallah Ali展 ラヒール・ワタン~祖国、我を去りて~
会期:2017/05/30~2017/06/04
ギャラリー ターンアラウンド[宮城県]
仙台藝術舎creekの第2期打ち合わせのために、ギャラリー・ターンアラウンドへ。ちょうどイラクのアーティスト、ハーニー・ダッラ・アリーの個展を開催していた。イラク戦争による情勢悪化によって故郷を離れざるをえなかった作家の母なる大地への想いを表現している。こうした感覚は、現在の日本ならば、原発事故が起きた福島から避難した人たちと重ね合わせられるかもしれない。なお、彼の作品は、イスラム的というよりは、さらに歴史の古層であるメソポタミアの幾何学的なイメージから着想を得ているのも興味深い。
2017/05/31(水)(五十嵐太郎)
マスター・プリンター 斎藤寿雄
会期:2017/05/30~2017/07/02
JCIIフォトサロン[東京都]
世界的に見ても珍しい写真展といえるだろう。斎藤寿雄は1938年東京生まれ。1953年に株式会社ジーチーサンに入社して以来、写真印画のプリンター一筋で仕事をしてきた。1969年にドイ・テクニカルフォトに、2004年にはフォトグラファーズ・ラボラトリーに移るが、篠山紀信の「NUDE」展(銀座・松坂屋、1970)から、荒木経惟の「Last by Leica」(art space AM、2017)まで、そのあいだに手がけた写真展は数えきれない。1973年にはニューヨーク近代美術館で開催された「New Japanese Photography」展の出品作のプリントもおこなっている。名実ともに日本を代表するプロフェッショナルのプリンターといえるだろう。
今回の展示は、斎藤が思い出に残っているという写真家42人から、あらためてネガを借りてプリントした作品を集めたものだ。このようなプリンターの仕事に焦点を合わせた企画は、これまでほとんどなかったのではないだろうか。出品作家の顔ぶれが凄い。浅井慎平、荒木経惟、石内都、伊奈英次、宇井眞紀子、江成常夫、大石芳野、金村修、鬼海弘雄、北島敬三、蔵真墨、郷津雅夫、今道子、笹岡啓子、笹本恒子、佐藤時啓、篠山紀信、田村彰英、土田ヒロミ、東松照明、徳永數生、土門拳、長島有里枝、長野重一、ハービー山口、平林達也、広川泰士、深瀬昌久、細江英公、前田真三、正木博、松本徳彦、宮本隆司、村井修、村越としや、森山大道、山口保、山端庸介、山本糾、吉行耕平、渡邉博史、Adam Dikiciyan。こうして見ると、それぞれの作品に即して、プリンターの仕事の幅が大きく広がっていることがわかる。たとえデジタル化がさらに進行したとしても、斎藤のプリントから確実に伝わってくるアナログの銀塩写真の魅力は、薄れることがないのではないだろうか。今回はモノクロームのプリントだけだったが、カラーも含めた展示も見てみたい。
2017/06/01(木)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス|2017年6月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
彫刻の問題
爆心地・長崎から彫刻を問う──
長崎市の原爆落下中心地に建てられたモニュメントに焦点を当て、その意味を問い直す「彫刻の問題」展が2016年秋、開催されました。本書は、同展の企画者、金井直と、出品作家の白川昌生、小田原のどかによる公共彫刻の問題点に焦点を当てた論考を収録。彫刻との関わりがとくに深い、爆心地・長崎から、戦後日本の彫刻を再検証するための論集です。
マイクロシェルター──自分で作れる快適な小屋、ツリーハウス、トレーラーハウス
狭小建築プロジェクトは、材料も少なくて済み(捨てられた材料の再利用も可能)、失敗にも寛容という特徴を持っています。本書『マイクロシェルター』は、これまで机上に乗る作品を作ってきた読者を「自分の居場所を自分で作る」という、まったく新しい世界へと誘う書籍です。実際に生活できる小さな家(タイニーハウス)、世の中のわずらわしいことから逃れるための一時的な隠れ家、ツリーハウス、移動式の家(トレーラーハウス)など、狭いスペースを有効に使うための驚くようなアイデアが盛り込まれた50を超えるプロジェクトをフルカラーで紹介し、読者の想像力と独立心を刺激します。狭小建築に最適な工具の選び方や低コストの部屋の飾り方など、実践的な情報も紹介しています。
アルスエレクトロニカの挑戦──なぜオーストリアの地方都市で行われるアートフェスティバルに、世界中から人々が集まるのか
人口20万人の町リンツは、市民を巻き込みながら最先端のメディアアート・フェスティバルや国際コンペを開催、教育拠点のミュージアムや産業創出拠点のラボを設立、衰退した工業都市を創造都市へ変貌させた。市民を主体に約40年をかけた町のイノベーションに、都市政策・ブランディングに必要なクリエイティブメソッドを学ぶ。
ライアン・ガンダー──この翼は飛ぶためのものではない
ライアン・ガンダーによる所蔵作品展─かつてない素晴らしい物語
国立国際美術館で開催している展覧会「ライアン・ガンダー─この翼は飛ぶためのものではない」展および「ライアン・ガンダーによる所蔵作品展─かつてない素晴らしい物語」のカタログ。ライアン・ガンダーのテキストと本展を企画した学芸員、中西博之氏の論考を収録。
六本木開館10周年記念展 神の宝の玉手箱
六本木開館10周年記念展 第二弾『神の宝の玉手箱』。本展は修理後初公開となる国宝《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》を基点に現存する手箱の名品と関連作品を集め、手箱の神宝としての姿を中心にご紹介します。
本図録は、全展示作品のカラー図版と解説を掲載しており、巻頭には修理後の《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》の全方向から撮影した画像を掲載しています。
U‐35 Under 35 Architects exhibition──35歳以下の若手建築家による建築の展覧会
「Under 35 Architects exhibition 2017 OPERATION BOOK──35歳以下の若手建築家による建築の展覧会」の図録。
2017年の公募審査には、五十嵐太郎氏が選考。各建築家のプロジェクト紹介のほか、五十嵐淳氏へのインタビューを収録。
超絶記録!西山夘三のすまい採集帖
建築学者・建築家の西山夘三(うぞう)(1911-1994)は、すまいを科学的に研究したパイオニアであり、「食寝分離論」の提言者、そして戦後のDK型間取りの生みの親である。1940〜60年代に実施した住宅の徹底調査は日本のすまいが劇的に変化した時期の記録だ。入念なフィールドワークで採集した膨大な調査票、図版や写真類からは、夘三が漫画家志望だったことや驚異的な記録魔であったことが手に取るように分かる。その夘三らしさを存分にフューチャーした西山すまい学が本書である。夘三が採集した町家、国民住宅、電車住宅など当時のすまい26項目や、自らを実験台にした西山家のすまい方の変遷を夘三の図版満載・絵解き式で展開する。漫画作品や極小文字で綴られた日記帳など夘三の多才さにも触れる一冊。
HAPS事業報告書 2016年度
東山アーティスツ・プレイスメント・サービス実行委員会(HAPS)の2016年度の活動報告書。森美術館チーフ・キュレーターの片岡真実氏、京都芸術センター館長の建畠晢氏、HAPS実行委員長の遠藤水城氏による鼎談「HAPSの働きとこれからの京都アートシーン」を収録。
岐阜美術館 アートまるケットレポート 2015→2016
岐阜美術館の館長、日比野克彦氏のディレクションにより2015年に開始した「アートまるケット」の報告記録。
トーキョーワンダーサイト アニュアル2016
東京を拠点に、公募展、レジデンス事業、若手クリエーターの発掘事業などを手がけるトーキョーワンダーサイト。本書はその2016年度の活動記録集。1年間に行なわれた全事業の詳細や参加アーティストのプロフィール、公募展の審査員レビューのほか、青木真莉子、山田健二、児玉北斗のアーティスト・インタビューを収録。
2017/06/14(木)(artscape編集部)