artscapeレビュー
2018年03月15日号のレビュー/プレビュー
岡上淑子コラージュ展──はるかな旅
会期:2018/01/20~2018/03/25
高知県立美術館[高知県]
1928年高知市生まれの岡上淑子は、1953年と56年に瀧口修造の推薦で、タケミヤ画廊で個展を開催し、その清新なフォト・コラージュ作品が注目された。だが、1957年に結婚して創作活動から遠ざかったこともあり、2000年に第一生命ギャラリーで44年ぶりの個展を開催するまでは「忘れられた作家」になっていた。だが、それ以後内外の美術館に作品が収蔵され、作品集も次々に刊行されるなど、再評価の機運が高まりを見せている。今回の展覧会には、彼女のコラージュ作品140点余りのうち80点が出品されていた。
あらためて展示作品を見ると、彼女の『ライフ』や『ハーパーズ・バザー』などの雑誌の図版を切り貼りしていく構想力と技術力とが傑出したものであったことがよくわかる。これまで岡上の作品については、文化学院デザイン科出身の若い女性が「頭のなかに描いた空想や夢」の産物という見方が一般的だった。ところが、今回作品を見て、彼女が戦後の日本の現実や当時の女性の社会的な立場をきちんと見つめて、むしろそれに対する反抗の思いを込めて制作していたのではないかと強く感じた。例えば、「戦場の歌」(1952)、「戦士」(同)といった作品にあらわれる、廃墟と化した戦場のイメージには、男性中心に進められた戦争への忌避の感情が滲み出ているようでもある。岡上は2012年のインタビューで「当時日本の未婚女性に押しつけられていた制約や慣習から解放された、独立した女性になること」を望んでいたと述べている。彼女の仕事をフェミニズムの先駆として位置づけることもできそうだ。
高知県立美術館には、石元泰博フォトセンターが設けられており、やはり高知県出身の彼の遺作3万5千点もコレクションされている。そちらでは、ちょうど平成29年度第3回コレクション展として「色とことば」展が開催されていた。樹木やビルなどのシルエットに多重露光で原色を重ね写した、遊び心あふれるユニークな作品群である。
2018/03/01(木)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス│2018年3月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
〈妊婦〉アート論 孕む身体を奪取する
孕む身体と接続したアートや表象──妊娠するラブドールやファッションドール、マタニティ・フォト、妊娠小説、胎盤人形、日本美術や西洋美術で描かれた妊婦──を読み解き、妊娠という女性の経験を社会的な規範から解き放つ挑発的な試み。
gggBooks No.125 ウィム・クロウエル
「デザイナーとは、客観的な姿勢を持ってインフォメーションデザインに取り組むべき、と主張する彼の見解は、新たなパラダイムの形成を後押しし、生き生きとしたデザインの風潮を生み出すことにも貢献しました。クロウエルの全業績を顧みると、理論と手法に前例のない次元の詩情と美学を統合させつつ、半世紀にわたって極めて一貫性のある作品づくりを実現し続けてきた証しが浮かび上がってきます」。オランダのグラフィックデザイナー、ウィム・クロウエルの業績の全容を伝える日本初の展覧会に合わせ発売された作品集。
版画の景色 現代版画センターの軌跡
「多くの人々が手にすることのできる「版画」というメディアの特性を生かし、その普及とコレクターの育成を目ざして誕生した「現代版画センター」(1974-85)。同センターは10年あまりの活動の中で、およそ80人におよぶ美術家と協力して700点を超える作品を次々に世に送り出し、同時代の美術の一角を牽引したことで知られています。(中略)現代版画センターが制作した作品と資料から、その活動の軌跡をたどります」。
同名の展覧会は埼玉県立近代美術館にて2018年3月25日(日)まで開催中。
ふるさとの駄菓子 ──石橋幸作が愛した味とかたち
「吹き飴、かりんとう、ねじりおこし、かるめら焼…江戸時代より日本各地で米穀や水飴を用いて作られ育まれてきた郷土駄菓子の数々。日本の風土から生まれた昔ながらの菓子は戦後より徐々に数が減少する中で、その姿を後世に残すべく全国行脚した人がいた。仙台で創業明治18年から続く「石橋屋」の二代目、石橋幸作氏(1900-1976)である。(中略)本書では、幸作氏の駄菓子愛に溢れた記録をたっぷりと図版展開。全国で採集した駄菓子スケッチと名前や製法までも書き留めた記録帳、食文化の観点から民俗学的分類と解説を交えて紹介した再現模型、幸作氏の功績と仙台駄菓子誕生との関わりもひもとく。ページをめくるたびに素朴で愛らしい駄菓子の表情が彩り豊かに展開する。失われつつある庶民の菓子文化を考察する上で貴重な一冊」。
同名の展覧会はLIXILギャラリー大阪にて開催中(東京にも巡回予定)。
サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法
「フランスを代表するポスター作家であるレイモン・サヴィニャック(1907-2002)。サーカスや見世物のアートに魅せられ確立したサヴィニャックのスタイルは、第二次世界大戦後、それまでのフランスにおけるポスターの伝統であった装飾的な様式を一新します。(中略)20世紀フランスという時代と場所の空気を切り取ってきた写真を通して、今日『屋外広告』とよばれる広告芸術が、道行く人々の心を癒し心躍らせ、時に批判され、街の中でどのような効果を発揮していたかに思いを馳せながら、ポスターというメディアを魔術師のように操ったサヴィニャックの世界をご堪能ください」。
練馬区立美術館で2018年4月15日(日)まで開催中(その後国内4カ所に巡回予定)の「練馬区独立70周年記念展 サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法」展の公式図録。
ビジュアル版 レイモン・サヴィニャック自伝
本書は、サヴィニャックが残した唯一のまとまった著作物である自伝(初版1975年、再版1988年)の完全新訳です。幼い頃のパリの下町での暮らしや、兵役、なかなか芽が出ない解雇と職探しの日々、そして41歳の時に突然、訪れた大成功とその後に続く国際的人気作家としての激動の半生が、作品と同様エスプリ溢れる軽快な筆致によって、古き良きフランス映画のように描き出されます。随所に織り込まれたユニークな創作論も魅力のひとつです。
オリンピックと万博 ──巨大イベントのデザイン史
二〇二〇年東京五輪のメインスタジアムやエンブレムのコンペをめぐる混乱。巨大国家イベントの開催意義とは何なのか? 戦後日本のデザイン戦略から探る。
写真の映像 写真をめぐる隠喩のアルバム
世界言語としての写真という記号をめぐる事典──黎明期からデジタルメディア時代まで、アルファベット順に55項目のキーワードで写真作品(ニエプス~アーバス)を読み解く。数々の写真論(ベンヤミン~クレーリー)の引証を交えつつ、〈映像=表象〉をめぐる隠喩の星座がもつ写真史的布置を浮かび上がらせる、光と影のアルバム。
福岡道雄 つくらない彫刻家
大阪在住の彫刻家、福岡道雄(1936年生まれ)。時代の流れを横目に、「つくること」のあるべき在り方を静かに問いつづけてきた人物です。彫刻家を志した1950年代から、「つくらない彫刻家」となることを宣言した2005年を経て現在にいたるまで、60余年にわたるその制作の軌跡を紹介します。
KIITOドキュメントブック 2016
デザイン・クリエイティブセンター神戸の2016年度の活動をドキュメントしたアニュアルブック。一年間を通じて施設の内外で行なわれた多様なプロジェクトやワークショップなどを豊富な写真とともに紹介。
2018/03/13(artscape編集部)