artscapeレビュー

2020年11月01日号のレビュー/プレビュー

ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー所蔵 KING & QUEEN展 ─名画で読み解く 英国王室物語─

会期:2020/10/10~2021/01/11

上野の森美術館[東京都]

「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」開催中の国立西洋美術館に近い上野の森美術館で、ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー所蔵の「KING & QUEEN展」が開かれている。ポートレートギャラリーはナショナル・ギャラリーの裏手に位置するので、本場並みに2館をハシゴできるのはありがたい。といっても期間が重なるのは1週間だけだけど。

ポートレートギャラリーはその名のとおり肖像作品だけを集めた美術館。今回はそのなかから、イギリス国王および王族の肖像画と肖像写真により、500年を超えるイギリス王室の歴史を振り返ろうというもの。イギリス王室は日本の天皇家以上に国民に親しまれており、風刺漫画やパパラッチ写真も含めて多くの視覚メディアに取り上げられてきた歴史がある。展示は、15世紀末のヘンリー7世に始まる「テューダー朝」から「ステュアート朝」「ハノーヴァー朝」「ヴィクトリア女王の時代」を経て、現在の「ウィンザー朝」まで5章に分けて構成される。こうした王朝の交代は国によって異なるが、イギリスでは家名が変わるごとに起こるため、女王が誕生すると王朝も変わるのかと思ったらそうとも限らず、よくわからない。いずれにせよイギリス人にとって〇〇朝時代というのは、恐怖の時代とか繁栄の時代とか、その時々の時代気分を象徴するひとつの目安になっているのかもしれない。

第1章のテューダー朝のポートレートはどれも平面的で無表情で、ポーズも設定もパターン化していて、顔をすげ替えてもわからないくらい。そういえば15-16世紀のイギリスの画家なんて1人も知らないなあ。1点だけうまいなと思ったのは、ドイツから来て宮廷画家になったホルバイン作《ヘンリー8世》の模写だった。続くステュアート朝になると表情もポーズも多様化し、ポートレートも生き生きとしてくるが、やっぱりうまいと思うのは、オランダから招聘されたホントホルストの作品や、フランドル出身のヴァン・ダイクの模写、その追従者の作品だったりして、ようやくイギリス人画家によるまともなポートレートが生まれるには、18世紀のジョシュア・レノルズまで待たなければならない(でもあとが続かない)。

そして19世紀、ヴィクトリア女王の登場だ。最盛期を迎えた大英帝国がブイブイいわせていた世紀に、63年にわたって君臨したヴィクトリア朝は、イギリス人にとって世界を制覇した絶頂期であり、古きよき時代の象徴だろう。美術も古典主義からポスト印象派まで目まぐるしく動き、新たなメディアとして写真も登場。この章の約半数は写真だ。また、でっぷり太り不機嫌そうな最晩年の女王を描いた肖像画は、前世紀であれば(というより同時代の日本であれば)不敬罪に問われかねない作品。民主主義が根づいたことを示している。

最後は20世紀からのウィンザー朝の時代。ウィンザー朝はジョージ5世、エドワード8世、ジョージ6世と続くが、なんてったって特筆すべきはエリザベス2世だ。なにしろ1952年に25歳で即位して以来いまにいたるまで68年間も在位してるんだから、ヴィクトリア女王も昭和天皇もびっくり。作品も全体の半分以上をこの時代が占めている。でもその間の王室をにぎやかしたのは、女王本人よりチャールズ皇太子であり、ダイアナ妃であり、カミラ夫人であり、ウィリアム王子とキャサリン妃であり、ハリー王子とメーガン妃であり、要するにドラ息子やドラ孫たちとその嫁のほうなのだ。肖像もエリザベス2世より子孫のほうが多く、「KING & QUEEN」のタイトルからズレてしまっている。

また、この時代はさらに視覚表現が拡大し、写真が8割を占めるほか、ウォーホルのポップなポートレートや、クリス・レヴァインによるレンチキュラーによる肖像画もあって楽しめる。ちなみに、ルシアン・フロイドが女王の肖像を描いている写真があったが、その肖像画は所蔵してないのか、所蔵しているけど出品できなかったのか、残念なところだ。しかしこれだけ実験的な肖像画があるのだから、デミアン・ハーストやクリス・オフィリあたりに肖像画をつくらせたら、もっと話題作ができたのに。でもこれはアートを見せるのが目的じゃなくて、イギリス王室を紹介する展覧会だからね。

2020/10/16(金)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00054526.json s 10165245

TOKYO MIDTOWN AWARD 2020

会期:2020/10/16~2020/11/08

東京ミッドタウン プラザB1[東京都]

アートとデザインの2部門のコンペ。「DIVERSITY」をテーマにしたデザインは、入選作を陳列ケースに入れて一列に並べているので見やすいが、テーマ自由のアートは、「東京ミッドタウンという場所を活かしたサイトスペシフィックな作品」という条件つきなので、あっちこっちに散らばって探すのが大変。ま、それがサイトスペシフィックたるゆえんなのだが。

なかでもサイトスペシフィックの極北を行くのが、船越菫の《つながり》。地下プラザの壁の凹んだ部分にぴったりハマるようにキャンバスをつくり、緑の植物をピンボケで撮ったような壁の模様をそのままキャンバスにつなげて油絵で描いている。つまり絵が壁に擬態しているのだ。これは見事。いちおう絵の前にはプレートを立てて作品であることを明示しているのだが、道行く人の大半は気づかないし、気づいたところで壁がもう1枚あるだけなので通り過ぎてしまう。それほど見事に壁と同化しているのだが、作者としてはこうした手応えのなさを成功と見るか、失敗と見るか、微妙なところ。それに、この「壁画」はこの場所以外に展示できないし、たとえ展示できてもまるで意味がない。だから会期が終わればこの絵の有効期限も切れてしまう。その意味で、まさにこの場所、この期間だけのテンポラリーな「不動産美術」と言うほかないのだ。



船越菫《つながり》[筆者撮影]


その隣の川田知志による《郊外観光~Time capsule media 3》も、優れてサイトスペシフィックな作品だ。これも壁面に穴だらけのボロボロのトタン塀を置き、向こう側に植栽や看板があるかのように描いている。一種のトリックアートであり、のぞき見趣味であり、なによりこぎれいなミッドタウンにダウンタウンの雑音を持ち込んだ批評精神を評価したい。この作品はほかの場所でも展示できるが、やはりこの場で発想された以上、この場でこそ破壊力を発揮できるだろう。ちなみに船越も川田も京都市芸(ウリゲーじゃないよ)の油画出身なのは偶然だろうか。


川田知志《郊外観光~Time capsule media 3》[筆者撮影]


この2作品以外はサイトスペシフィックとは言いがたいものの、いずれ劣らぬ力作ぞろい。坂本洋一の《Floating surface》は、4カ所で支えた黒いヒモを上下に動かし、あたかも波のように見せる作品。波といえばいまだ津波を思い出し、また、かつては六本木にも波が打ち寄せていたかもしれないことを再確認させてもくれるのだが、それ以上にたった1本のヒモだけで波を表現してしまう技術力に感心する。

和田裕美子の《微かにつながる》は、髪の毛をつなげてチョウやテントウムシのレース模様に編み上げたもの。おそらく公共の場でのコンペなので、当たり障りのない人とのつながりや虫のモチーフを前面に出したのだろうけど、誰のものともしれぬ髪の毛を編む行為は、ナチスの蛮行について教わった世代から見れば薄気味悪さを感じるし、スケスケのレース模様の全体像がブラジャーかパンティを連想させるのも、憎い仕掛けといえる。作者はかなりの確信犯だな。で、コンペの結果は、船越がグランプリ、川田が準グランプリ。真っ当な結果だと思う。

2020/10/20(火)(村田真)

甲斐啓二郎「綺羅の晴れ着」

会期:2020/10/13~2020/10/25

TOTEM POLE PHOTO GALLERY[東京都]

甲斐啓二郎は今年の3月に写真集『骨の髄』(新宿書房)を出版し、8月~9月には銀座ニコンサロンで同名の展覧会を開催した。ここ数年ずっと続けてきた、世界各地の祭事を取材してスポーツや格闘技の起源を探るという作業に、ひとつの区切りがついたということだ。大きな仕事が終わった後、「次」が見つかるまでに時間がかかるというのはありがちなことだが、甲斐がTOTEM POLE PHOTO GALLERYで開催した個展「綺羅の晴れ着」では、早くも新たな方向性が示されていた。

今回、甲斐が撮影したのは岡山・西大寺の「会陽」、三重・津市の「ざるやぶり神事」、岩手・奥州市の「蘇民祭」である。いずれも「はだか祭り」とも称され、褌ひとつの裸体の男性たちの集団が激しく体をぶつけ合うことで知られている。祭事の意味が伝わるような場面を注意深く避け、参加者の表情や身ぶりをきめ細やかに追う撮影のスタイルは、『骨の髄』とも共通しているが、見た目の印象はかなり違う。それは「はだか祭り」であるがゆえの、男たちの「汗や体臭を放出する、ぬるっとした肌」の感触が、より強調されているからだろう。彼らの姿は性的なエクスタシーと紙一重であるように見える。そのことで、祭事全般に潜んでいたエロス的な要素が、全面的に開示されることになった。

甲斐が今回発見した、「はだか祭り」の空間に備わった集団的なエロスの強烈な喚起力が、これから先どんなふうに展開していくのかはまだわからない。だが、その方向を突きつめていけば、新たな領域が見えてくるのではないかという予感がある。

2020/10/21(水)(飯沢耕太郎)

野口靖子『台湾 2017-2020』

発行所:VACUUME PRESS

発行日:2020/11/01

野口靖子は1973年、大阪生まれ。阿部淳、山田省吾とVACUUME PRESSを運営しており、これまで同出版社から『桜人』(2008)、『青空の月』(2013)の2冊の写真集を刊行してきた。3冊目にあたる本書『台湾2017-2020』をひもとくと、野口が写真家として力をつけ、魅力的なスナップショットの撮り手になってきたことがよくわかる。

2017-2020年に、台湾を何度も訪れて撮影した写真70点余りを集成した写真集だが、6×6判のフォーマットのカメラを巧みに使いこなして、路上の光景を鮮やかに切り取っている。何といっても、南の国に特有の、ねっとりと湿り気と熱気を帯びた空気感が、画面の隅々から伝わってくるのがいい。カメラと野口のからだとが一体化して、泳ぐように街をさまよっている様子が、的確な被写体との距離感で定着されていて、記憶の織目がゆるやかに解きほぐされていくような、心地よい気分を味わうことができた。

ただ、モノクロームでよかったのだろうか、という疑問は残る。視覚だけでなく、五感すべてを刺激する台湾の光景を白黒で描写すると、抽象度が増して、2017-2020年に撮影したという現在性が薄れてしまう。東松照明は、1972-73年に沖縄をモノクロームで撮影した後、写真集『太陽の鉛筆』(毎日新聞社、1975)の後半部分におさめた「東南アジア編」を開始するにあたって、カラー・ポジフィルムを使い始めた。台湾やフィリピンやインドネシアの「原色の街」を撮るのは、モノクロームではむずかしいと判断したということだ。無理強いするつもりはないが、野口の『台湾』の写真を見ていると、「色」がほしくなってくる。

2020/10/21(水)(飯沢耕太郎)

カタログ&ブックス | 2020年11月1日号[テーマ:食べる]

テーマに沿って、アートやデザインにまつわる書籍の購買冊数ランキングをartscape編集部が紹介します。今回のテーマは、京都dddギャラリー(京都府)で開催中の「食のグラフィックデザイン」にちなみ「食べる」。このキーワード関連する、書籍の購買冊数ランキングトップ10をお楽しみください。
ハイブリッド型総合書店honto調べ。書籍の詳細情報はhontoサイトより転載。
※本ランキングで紹介した書籍は在庫切れの場合がございますのでご了承ください。

「食べる」関連書籍 購買冊数トップ10

1位:大正昭和レトロチラシ 商業デザインにみる大大阪

著者:橋爪節也
発行:青幻舎
発売日:2020年6月16日
定価:2,300円(税抜)
サイズ:19cm、255ページ

大正14年(1925)、東京市を抜いて日本第1位、世界第6位のマンモス都市に膨張した大阪市。「大大阪」と称された華やかな時代の秀選チラシ約360点を、「買う」「食べる」といった6つのテーマに分けて収録する。


2位:結局できずじまい(SHINSUKE YOSHITAKE Illust Essay Books)

著者:ヨシタケシンスケ
発行:講談社
発売日:2013年1月17日
定価:952円(税抜)
サイズ:19cm、93ページ

おしゃれ、ボウリング、柔軟体操、キレイに食べる、パソコンへの心構え、献血、お祭りをエンジョイ、自発的な行動…。なんでこんな簡単なことができないんだろう? 「自分のできないこと」をテーマにしたお話をまとめた、誰もが感じるモヤモヤを描いたイラストエッセイ。


3位:ゴッホ原寸美術館 100% Van Gogh!(100% ART MUSEUM)

画:Vincent van Gogh
著者・監修:圀府寺司
発行:小学館
発売日:2017年8月1日
定価:3,000円(税抜)
サイズ:30cm、200ページ

ゴッホの名画を迫力の原寸で再現! 《ジャガイモを食べる人々》《アルルの跳ね橋》《夜のカフェ・テラス》《ひまわり》《星月夜》《糸杉》など、初期から晩年まで、ゴッホの代表作を厳選。力強い筆触やマティエール(絵肌)などゴッホ作品の魅力を原寸図版ならではの迫力で再現。また、制作時期による「自画像」や「肖像画」の変貌や、「ジャポニスム(日本趣味)」との関わり、風景画や静物画における様々な挑戦、さらに素描や水彩画など、その画業を通じて試みた技法と様式の多様性・変遷を概観。



4位:世界のSweets & Dishes(ぬり絵BOOK)

著者:西脇エリ
発行:池田書店
発売日:2016年4月14日
定価:1,200円(税抜)
サイズ:15×21cm

カラフルなスイーツ、湯気をあげるジューシーな料理、旬の食材。国は違えど、おいしいものはみんなの心をわくわくさせてくれます。作っている風景や食べる人々の笑顔も、おいしいスパイス。本書はそんな「食」をテーマにしてぬり絵を作りました。



5位:見てすぐ描ける動物スケッチ イヌ38種・ネコ16種・野生動物80種を見る・読む・描く

著者:視覚デザイン研究所
発行:視覚デザイン研究所
発売日:2009年4月
定価:1,500円(税抜)
サイズ:20×22cm、167ページ

「走る」「歩く」「おすわり」「食べる」「身づくろい」など、イヌ、ネコ、草食動物、食肉・雑食動物、サル目の様々な動作を描いたスケッチを、各動物に関する知識とともに収録。



6位:この椅子が一番! 椅子に関わる専門家100人が本音で選んだシーン別ベストな椅子とは…

著者:西川栄明
発行:誠文堂新光社
発売日:2017年9月4日
定価:1,800円(税抜)
サイズ:19cm、287ページ

家具デザイナー、建築家、インテリアショップ店長、家具メーカー商品開発担当者など、椅子に関わる専門家100人に、名作椅子ベスト20.座りやすい椅子ベスト10・ワースト10、仕事がバリバリはかどる椅子、パスタを食べる時に座りやすい椅子、5歳の子どもに座らせたい椅子など、約40項目のアンケートを実施。その回答を基に、それぞれの項目に適する椅子をベスト20、ベスト10、ベスト5形式で紹介する。



7位:はりねずみのあずき&もなかポストカードブック

著者:角田修一
発行:講談社
発売日:2020年1月23日
定価:1,000円(税抜)
サイズ:15cm、32ページ

はりねずみ界の大スター、父あずき&娘もなかのポストカードブック
インスタグラムでりんごを食べるあずきの動画が海外メディアの目にとまり紹介されたのをきっかけにフォロワー数が激増し、一躍スターとなったあずき。今回、素敵なポストカードブックを発売。窓辺、キッチン、リビング、バスルーム、書斎……。人間世界でいたずらをする父あずきと娘もなかとのストーリー。ファンタジーの世界を表現したスタイリングで撮りおろした作品は、SNSでは見られないプレミアム感満載です。



8位:柳家喬太郎江戸料理平らげて一席

著者:柳家喬太郎(噺)、佐藤俊一(聞き書き)
発行:小学館
発売日:2010年2月24日
定価:1,600円(税抜)
サイズ:19cm、255ページ

柳家喬太郎が語る、江戸の食が要の噺35席
いま実力・人気ともNo.1の若手落語家・柳家喬太郎が、江戸の食が噺の要になっている落語について語ります。師の豊富で深い蘊蓄、そして演者としての視点からの演じ所、聞き所のツボが、高座そのままの軽妙な語り口で展開。喬太郎師匠の、“読む落語”とも言える一冊です。本寸法の古典落語34席に、自身の新作『寿司屋水滸伝』も入った、厳選35席。読んだら食べたくなってしまう、そんな江戸料理ラインナップには、料理そのものの歴史や解説も。落語を聞いた後、登場する料理を食べながら居酒屋で蘊蓄を一捻り、と言う、ひと味違う落語通を気取れる豆知識も付いています。



9位:池波正太郎の世界(コロナ・ブックス)

編集:太陽編集部
発行:平凡社
発売日:1998年12月
定価:1,523円(税抜)
サイズ:22cm、126ページ

「散歩」と「食べること」の達人、「映画」の見巧者、そして「猫」を愛した東京人−池波正太郎。人を惹きつけてやまないその男振りを、エッセイ、写真、スケッチの数々で再び甦らせる。



10位:いろは落語づくし 1 落語からわかる江戸の食

著者:稲田和浩
発行:教育評論社
発売日:2019年11月15日
定価:1,400円(税抜)
サイズ:19cm、230ページ

芋から酢豆腐、雲古まで、落語に出てくる食べ物噺を楽しむ一冊。「うまいもん」をいろはの順に並べ、それが登場する落語とともに紹介。落語が完成したとされる江戸時代の庶民の暮らしも一緒に味わえる。





artscape編集部のランキング解説

食は人なり。医食同源。食べることにまつわることわざや慣用句は数多くありますが、食は私たちが健康に生きるうえで必要不可欠なものであるという以上に、食べることが何よりの人生の喜びでありエンターテイメントという人も少なくないのではないでしょうか。
「食べる」というキーワードで抽出した今回のランキング。『柳家喬太郎江戸料理平らげて一席』(8位)、『いろは落語づくし 1 落語からわかる江戸の食』(10位)と、落語に関する本が2冊もランクインしているのが興味深いポイントです。そのいずれもがテーマにしているのは、江戸時代に食べられていた料理の数々。蕎麦を啜ったりお酒を飲んだり、噺家の洗練された身振りを通して見えてくる食の風景はいつも美味しそうですが、数多くの噺を食という視点で掘り下げると、江戸の庶民の食文化の奥行きに驚かされること間違いなし。
『りんごかもしれない』や『もう ぬげない』、『りゆうがあります』などの絵本で知られるヨシタケシンスケの『結局できずじまい』(2位)は、著者が「うまくできない」と感じる日常のあれこれをユーモラスな筆致で綴ったイラストエッセイ。その中で、ごはんをキレイに食べることができないというジレンマに共感する人は実は多そうです。生活のさまざまなシーンごとに適した椅子を専門家たちが選び紹介する6位の『この椅子が一番! 椅子に関わる専門家100人が本音で選んだシーン別ベストな椅子とは…』では、「パスタを食べる時に座りやすい椅子」というピンポイントなシチュエーションまでカバー。食以外のシーンを通しても、椅子というプロダクトの想像以上の多様性を知ることができるユニークな一冊です。また、「食×本」を語るうえで外せない、数多くの優れた食のエッセイを遺した文筆家・池波正太郎の世界を総覧できる一冊もやはりランクイン(9位)。
食欲の秋、京都dddギャラリーで開催されている「食のグラフィックデザイン」展では、広告をはじめとした古今東西の食にまつわるグラフィックデザインが一堂に会しています。食べる楽しみを伝えるものだけでなく、フードロスなどの社会問題を提示し、私たちに問いを投げかけるのもグラフィックデザインの役割。今回ランクインした本たちも、生きることと切り離せない食を考える、新しい手がかりになることを願います。


ハイブリッド型総合書店honto(hontoサイトの本の通販ストア・電子書籍ストアと、丸善、ジュンク堂書店、文教堂など)でジャンル「芸術・アート」キーワード「食べる」の書籍の全性別・全年齢における購買冊数のランキングを抽出。〈集計期間:2019年10月23日~2020年10月22日〉

2020/11/02(月)(artscape編集部)

artscapeレビュー /relation/e_00054515.json s 10165255

2020年11月01日号の
artscapeレビュー