2022年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

2021年12月15日号のレビュー/プレビュー

藤岡亜弥『アヤ子江古田気分/my life as a dog』

発行所:私家版(発売=ふげん社ほか)

発行日:2021/09/16

藤岡亜弥は1990年から94年にかけて、日本大学芸術学部写真学科の学生として、東京・江古田に住んでいた。今回、彼女が刊行した2冊組の小写真集は、主にその時代に撮影した写真をまとめたものだ。『アヤ子江古田気分』には、「木造の古い一軒家の2階の八畳ひと間」に大学卒業後も含めて8年間住んでいた頃のスナップ写真が、大家の「82歳のおばあさん」との暮らしの記憶を綴った文章とともに収められている。『my life as a dog』は、「大学生のときに夢中になって撮った」という子供たちの写真を集めたものだ。

どちらも彼女の後年の作品、『私は眠らない』(赤々舎、2009)や第43回木村伊兵衛写真賞を受賞した『川はゆく』(赤々舎、2017)と比べれば、「若書き」といえるだろう。とはいえ、奇妙に間を外した写真が並ぶ『アヤ子江古田気分』や、牛腸茂雄の仕事を思わせるところがある『my life as a dog』のページを繰っていると、混沌とした視覚世界が少しずつくっきりと像を結び、まぎれもなく一人の写真家の世界として形をとっていくプロセスが、ありありと浮かび上がってくるように感じる。「若書き」とはいえ、そこにはまぎれもなく藤岡亜弥の写真としかいいようのない「気分」が漂っているのだ。

木村伊兵衛写真賞受賞後、広島県東広島市に移住した藤岡は、いま、次のステップに向けてのもがきの時期を過ごしているようだ。写真学科の学生時代をふりかえることも、その脱皮のプロセスの一環といえるのだろう。だがそれとは別に、2冊の写真集をそのままストレートに楽しむこともできる。笑いと悲哀とが同居し、どこか死の匂いが漂う写真たちが、じわじわと心に食い込んでくる。

2021/12/06(月)(飯沢耕太郎)

大道兄弟『My name is my name is…』

発行所:桜の花本舗

発行日:2021/09/16

毎月、たくさんの写真集が送られてくる。だが、ほとんどが自費出版のそれらの写真集のなかで、何か書いてみたいと思わせるものはそれほど多くない。大道兄弟という未知の二人組が、自分たちの写真をまとめた『My name is my name is…』も、最初はなんとなく見過ごしていたのだが、そのうちじわじわと視界に入ってきて、気になる一冊として浮上していた。

どうやら二人は1994年山梨県生まれ、大阪府堺市育ちの双子の兄弟(YukiとKoki)のようだ。赤々舎などでアルバイトをしながら、写真を撮り続け、Zineを既に40冊余り出している。『My name is my name is…』が最初の本格的な写真集である。モノクロ、カラーが入り混じり、被写体との距離感もバラバラだが、どこか共通の質感を感じさせる写真が並ぶ。特に、人の写真にその眼差しの質がよく表われていて、真っ直ぐに向き合いつつも、暴力的にねじ伏せようとはしていない。共感をベースにしながらも、なかなかそれを伝えることができないもどかしさと、コミュニケーションへの切実な渇望が写真に表われている。と思うと、そっけない、だが体温を感じさせるモノの写真もあり、被写体をあまり厳密に定めてはいないようだ。まだ海のものとも山のものともつかないが、写真を通じて世界と深くかかわっていこうとする、ポジティブな意欲が伝わってくる写真が多かった。

どれがYukiの写真でどれがKokiの写真かは、あえて明確にしていない。「兄弟」というユニットに徹することで、個人作業を超えた共同性が芽生えつつあるのが逆に興味深い。可能性を感じさせる一冊だった。

2021/12/07(火)(飯沢耕太郎)

カタログ&ブックス | 2021年12月15日号[近刊編]

展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
※hontoサイトで販売中の書籍は、紹介文末尾の[hontoウェブサイト]からhontoへリンクされます





モダン建築の京都100 展覧会オフィシャルブック

編著:石田潤一郎、前田尚武(京都市京セラ美術館・本展企画者)
発行:Echelle-1
発行日:2021年9月25日
サイズ:A5判、319ページ

2021年9月25日〜2021年12月26日まで京都市京セラ美術館で開催されている展覧会「モダン建築の京都」のオフィシャルブック。



EXPO’70 大阪万博の記憶とアート

編著:橋爪節也、宮久保圭祐
著者:永田靖、岡田加津子、佐谷記世、DIKDIK SAHAHDIKUMULLAH、竹嶋康平、加藤瑞穂、正木喜勝、乾健一、岡上敏彦、長井誠、五月女賢司
発行:大阪大学出版会
発行日:2021年10月25日
サイズ:A4判、120ページ

「人類の進歩と調和」をテーマに開催された1970年大阪万博。今でも入場者の耳によみがえるパビリオンの仕掛ける轟音やイベントの音楽。斬新、奇抜な印象を強く残した建造物、映像や催しの数々のデザインは明らかにこの国の輝かしい未来を人々に印象付けた。その記憶には50年を経て、同じ熱狂を持って語られない記憶も現れて加わり、蘇るアートに見えるもの、万博そのものや、開催地周辺にその後与えた影響など、新たにそそられる興味深さが見いだせる。



近代を彫刻/超克する

著者:小田原のどか
発行:講談社
発行日:2021年10月29日
サイズ:四六判、146ページ

〈思想的課題〉としての彫刻を語りたい。 
街角の彫像から見えてくる、もう一つの日本近現代史、ジェンダーの問題、公共というもの……。 都市に建立され続け、時に破壊され引き倒される中で、彫刻は何を映すのか。
注目の彫刻家・批評家が放つ画期的な論考。



上野リチ ウィーンからきたデザイン・ファンタジー

執筆:池田裕子(京都国立近代美術館学芸課長)、アンネ・カトリン・ロスベルク(MAK─オーストリア応用芸術博物館学芸員)、阿佐美淑子(三菱一号館美術館主任学芸員)、本橋仁(京都国立近代美術館特定研究員)、宮川智美(京都国立近代美術館研究員)
発行:朝日新聞社
デザイン:西岡勉
サイズ:B5判変型、339ページ
発行日:2021年11月15日

世界で初めての、上野リチ・リックスの包括的な回顧展にふさわしい、決定版の図録です。図版は全ページカラーで紹介。作品所蔵先、展覧会開催館の研究者らによる論文も掲載しています。



映像が動き出すとき

著者:トム・ガニング
編訳:長谷正人
訳者:松谷容作、菊池哲彦、三輪健太朗、川﨑佳哉、木原圭翔、増田展大、前川修、望月由紀
発行:みすず書房
発行日:2021年11月16日
サイズ:A5判、368ページ

「アトラクションの映画」の概念で、映画という枠組みを超え映像文化研究に大きなインパクトをもたらした初期映画研究・メディア史研究の泰斗ガニング。その思考はさらに深化して、鮮やかな〈動き〉の視覚文化論を展開し、写真・映画・アニメーションにわたる映像文化圏全体を見晴らす。


ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる? 

編:公益財団法人ポーラ美術振興財団ポーラ美術館
発行:平凡社
発行日:2021年11月26日
サイズ:A4変形判、 216ページ

写真、ガラスの彫刻、ドローイングなど多様なメディアでコンセプチュアルな作品を制作し続けてきたニューヨーク在住のロニ・ホーン。40年の実践を紹介する国内初の展覧会図録。



だれでもデザイン 未来をつくる教室

著者:山中俊治
発行:朝日出版社
発行日:2021年11月27日
サイズ:四六判、360ページ

偶然の出会いを大切に、隣の人の脳みそも借りて。スケッチして、観察して、アイデアを伝え合う。Suicaの改札機、美しい義足。人間と新しい技術の関係を考えつづけてきたデザイナーが中高生に語る、物づくりの根幹とこれから。



Paul Cox Box

著者:ポール・コックス
発行:ブルーシープ
発行日:2021年11月29日
サイズ:A4変形、64ページ

フランス人アーティストのポール・コックス(Paul Cox, 1959-)は、絵画、グラフィックデザイン、舞台美術をはじめ、多くの分野に才能を発揮し、日本でも広告や絵本などの仕事を通して幅広いファンを得ています。『Paul Cox Box』は、今年11月から板橋区立美術館などで開催する展覧会「つくる・つながる・ポール・コックス展」をそのまま持ち帰るコンセプトでつくられた本です。段ボールでできた箱の中には、ポスター、テキスト、ゲーム、写真、さらにはポール手描きのプレゼントが収められ、作家のこれまでと最新作までを、テキストや図版、フランスでの様子、貴重な資料などで伝えます。知的でユーモラスなポールのたくらみが詰まった特別なアートブックです。



建築家・坂倉準三「輝く都市」をめざして

著:松隈洋
発行:青幻舎
発行日:2021年12月3日
サイズ:A5判変型、152ページ

モダニズム建築の巨匠ル・コルビュジエに師事した建築家・坂倉準三。彼の活動を通して、戦後復興の建築・都市の歴史と、髙島屋をはじめとする百貨店建築を通して試みた、建築が人流を都市へと誘導する都市インフラデザインについて紹介する。



危機の時代を生き延びるアートプロジェクト

編著:橋本誠・影山裕樹
著:石神夏希・中嶋希実・はがみちこ・橋爪亜衣子・南裕子・谷津智里
発行:千十一編集室
発行日:2021年12月5日
サイズ:四六判、244ページ

東日本大震災から10年。全国に広がるアートプロジェクトの取り組みから、社会×アートの未来を展望する。災害や感染症、分断や不寛容が広がる中“アートは社会の役に立つ”のか? それとも“今改めて自分を見つめなおすために”アートが必要なのか? 各地の事例から見えてくる、プロセスを重視するアートプロジェクトの可能性。ウェブマガジン「EDIT LOCAL」による、地域と文化について考えるシリーズ「EDIT LOCAL BOOKS」第一弾。



BAUHAUS HUNDRED 1919−2019 バウハウス百年百図譜

著:伊藤俊治
ブックデザイン:松田行正
発行:牛若丸
発行日:2021年12月8日
サイズ:A5判変型、264ページ

美術史家、伊藤俊治が所蔵するバウハウス関連書100 冊の表紙と中頁を掲載。その100 年の歴史を紐解きながら、及ぼした影響について考察した保存版。






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https://honto.jp/

2021/12/14(火)(artscape編集部)

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クリスチャン・マークレー 「トランスレーティング[翻訳する]」

会期:2021/11/20~2022/2/23

東京都現代美術館[東京都]

映像作品はたいてい長い割に退屈なのが多く、時間の無駄なのでチラ見しかしないが、クリスチャン・マークレーの映像は長いくせにずっと見ていて飽きることがない。今回は出品されていないが、ヴェネツィア・ビエンナーレで金獅子賞を受賞した《The Clock》は、映画の断片をつなぎ合わせて24時間を表現した文字通り24時間の長尺。ぼくは一部しか見ていないけど、時間が許せばすべて見たいと思っている。

出品作の《ビデオ・カルテット》は、《The Clock》に先行する作品。4面スクリーンにそれぞれ映画の登場人物が楽器を鳴らしたり、歌ったり、叫んだりするシーンの断片が次々と映し出されるのだが、それらの音がつながってひとつの「曲」を構成しているのだ。いわば映画のリミックスだが、原理がわかっても「はいおしまい」にはならず、繰り返し見ても飽きるどころか、見れば見るほど新しい発見があっておもしろさは増していく。それは映画の選択と構成の巧みさによるものだろう。

マークレーはもともと音楽シーンから出発し、レコードジャケットやコミックを使ったコラージュやペインティングを制作するなど、音楽と現代美術をつなぐ活動を展開してきた。例えば最初の部屋の《リサイクル工場のためのプロジェクト》は、奥行きのある旧式のパソコンのモニターを円形に並べ、工場でパソコンを解体する流れ作業を画面に映し出すインスタレーション。これから自分の身に降りかかるであろう運命を予知するかのような解体現場の映像を、モニター自身が流しているのだ。ユーモアと残酷さの入り混じった自己言及的な作品といえる。 《アブストラクト・ミュージック》は、ジャズなどのレコードジャケットに抽象絵画が使われることに目をつけ、タイトルやアーティスト名を絵具で消して原画の抽象絵画を復元させたもの。よくある遊びではあるが、カンディンスキーがシェーンベルクに触発されて抽象を始めたいきさつとか、ポロックがジャズ好きだったエピソードとかを思い出させる。こうした視覚と聴覚に関わる作品で笑えるのが、「アクションズ」のシリーズ。荒々しく絵具が飛び散るアクション・ペインティングの上に、コミックの「SPLOOSH」とか「THWUMP」といったオノマトペをシルクスクリーンで刷った絵画作品だ。絵具をぶちまけるアクションとオノマトペが見事に合致しているだけでなく、抽象表現主義にポップアートをレイヤーとして重ねることで、両者の差異と相似を示唆しているかのようにも見える。

「叫び」や「フェイス」のシリーズも、コミックから顔の部分をコラージュしたものだが、その選択と構成の巧みさといったら、どんなグラフィックデザイナーも顔負けだ。もう天性のヴィジュアルセンスとしかいいようがない。言い方は悪いが、他人のフンドシで相撲をとる大横綱だ。比べるのも酷だが、同時開催していたユージーン・スタジオが吹っ飛んでしまう。

2021/12/3(金)(村田真)

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HOKUTO ART PROGRAM ed.1 後編

会期:2021/10/30~2021/12/12

中村キース・ヘリング美術館[山梨県]

いまキース・ヘリング美術館では、40年近く前にぼくがニューヨークで撮ったキース・ヘリングの写真を展示してくれているのだが、なかなかコロナ禍が収まらず、ようやくタイミングを見計らって行くことができた。ちょうど今週まで「HOKUTO ART PROGRAM」という企画展もやっているし。これは山梨県北杜市にある清春芸術村、中村キース・ヘリング美術館、平山郁夫シルクロード美術館など5つの施設が、「芸術と観光という二つの要素を多面化し、『時間をかけてここに来ていただくことの価値』を磨き続け」ようとの主旨で始めたもの。ここではSIDE COREと脇田玲の2組が出品していた。どちらもキース・ヘリングやグラフィティに関連づけた作品となっている。

SIDE COREは《IC1(Imaginary Collection1)》と題して、高床式の小屋を制作。小屋の床には丸い穴が3カ所開いており、下から首を突っ込んで内部をのぞき見る仕掛けだ。のぞいてみると、室内にはストリート系のペインティングや版画がびっしり展示され、ネズミのぬいぐるみやスニーカーの空箱なども置いてある。作者がもらったり買ったりしたコレクションだそうで、3つの穴から見える作品群にはそれぞれ異なる意味が与えられているという。しかしこうして床スレスレの目線で見上げると、なんだか自分がネズミにでもなったような気分。さらに室内にはカメラが据えられ、のぞいた人の顔が外のモニターに映し出される仕掛けなのだ。タイトルの「IC1」はニューヨークのPS1、「イマジナリー・コレクション」はアンドレ・マルローの「空想の美術館」に由来するだろう。グラフィティや美術史の知を盛り込んでいる。


SIDE CORE《IC1(Imaginary Collection1)》 展示風景[筆者撮影]

脇田玲の作品は《アランとキースのために》と題された映像で、電子計算機の開発に関わった数学者のアラン・チューリング(1912-54)と、キース・ヘリング(1958-90)の時を超えた対話の場を創出するもの。チューリングは化学物質が相互に反応して拡散していく形態形成について考察したが、映像はモルフォゲンと呼ばれるその形態形成のパターンが、キースの絵とよく似ていることを示している。原理はさっぱりわからないけど、作品は一目瞭然、点が線になり枝葉のように四方に伸びていく様子は、まさに空間を埋め尽くしていくキースのドローイングそのもの。空間を線で均等に、効率的に埋めようとすると必然的にこういうパターンになるのだ。これはおもしろい。ちなみに2人ともホモセクシュアルだったらしい。

*脇田玲の展示会期:2021年10月16日(土)〜2022年5月8日(日)
 SIDE COREの展示会期:2021年10月30日(土)〜2022年5月8日(日)

2021/12/6(月)(村田真)

2021年12月15日号の
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