artscapeレビュー

2010年08月01日号のレビュー/プレビュー

大竹夏紀 展

会期:2010/07/12~2010/07/17

GALLERY b. TOKYO[東京都]

生き物のように飛び跳ねる髪の毛と大きな目、そしてまぶしいほどの色彩。いかにもアニメチックなアイドルを描いた大きな絵だが、じつは絹にロウケツ染めで描いているという。鮮やかな色彩と光沢を放つ絹の艶めかしさが、モチーフとなっているアイドルの華やかさを際立たせているようだ。漫画からアニメ、そしてネットへと発展していったサブカルの歴史の流れを、古来からの染色技法を徹底することによって、逆行させるところがおもしろい。

2010/07/15(木)(福住廉)

吾妻橋ダンスクロッシング2010

会期:2010/07/16~2010/07/18

アサヒ・アートスクエア[東京都]

 「重苦しい感じ」というのが第一印象(ぼくが見た回には、ライン京急、スプツニ子は出演せず)。機械仕掛けでかかしのカップルを空中で踊らせた宇治野宗輝の薄暗い雰囲気が冒頭を飾る。off-nibrollの「ギブ・ミー・チョコレート」は「チョコレート」という矢内原美邦の旧作を第二次世界大戦的戦争の問題へとアレンジし直すことで、暗さ(具体的には黒)の強烈なイメージが浮かび上がった分、旧作にあったデリケート(な他人との接触の感覚)さが蒸発してしまっていた。飴屋法水の作品では、三人の人物が舞台に並び自分語りをするのだが、真ん中の男が絶望的な個人的ストーリー(薬物摂取や望まぬ妊娠と出産について)を絶叫するので、他の人物の話が聞き取れない。チェルフィッチュは登場人物が1人。先日の「ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶」の最後のパートについて、それを演じた主人公が映像を脇に置いた状態で解説するというスピンオフ的趣向。それはチェルフィッチュが今回の公演に本腰を入れていないと思わされる内容で、正直見る者に脱力を催させた。最後に登場した遠藤一郎は、こうした重苦しい舞台の空気に巻き込まれていった。出演者それぞれの能力が十分に示されているとは思えなかった、と言わざるをえない。残念。ダンス、演劇、美術などの作家を集めたという点で公演タイトルにある「クロッシング」の含意は明確だった、その一方「ダンス」の意味合いが明確ではなかったというのが大きい。東京ELECTROCK STAIRSがいたじゃないかって? そ、それが答えなのでしょうか。

2010/07/17(土)(木村覚)

増山士郎 展 Intervention

会期:2010/06/12~2010/07/19

市原市水と彫刻の丘[千葉県]

昨年の第1回所沢ビエンナーレで話題を集めた増山士郎の個展。展覧会の会場で寝泊りしながらアルバイトに出かけていく様子を見せた《アーティスト難民》(2009年)のほか、展覧会のオープニングに訪れた客を個室化したカウンターでもてなす《Parky Party》(2010年)、警察による違法駐車取締りから車を守る《合法駐車》(2000年)、灰皿が設置されていない渋谷駅のモヤイ像前に球体状の剣山を置いてシケモクを生ける灰皿として機能させた《生けモク》など、増山の代表的な作品やプロジェクトを振り返る構成だ。新作《crossing the border》は、オランダのスキポール空港内で輪ゴムをセキュリティ・チェックを通過することなく飛ばすパフォーマンスを記録した映像作品。クリアボックスにうやうやしく収納された輪ゴムがなんともおかしい。全体的には、社会に批判的に介入する増山の真骨頂が表わされていた展示だったように思う。しかし、この会場は千葉の山奥の湖畔に立てられた美術館。文字どおり人里離れた美術館で見せられる社会介入型のアートに違和感を覚えたのも事実だ。もちろん田舎が社会ではないというわけではないが、社会に介入する増山の作品の魅力を最大限に引き出すのであれば、むしろ都心の美術館のほうがふさわしい。何より増山が介入する現場はつねに都市のど真ん中にあるのだから。ぜひとも都市型の美術館に巡回してほしい。

2010/07/17(土)(福住廉)

池田龍雄 アヴァンギャルドの軌跡

会期:2010/06/19~2010/07/19

山梨県立美術館[山梨県]

美術家・池田龍雄の本格的な回顧展。戦後間もない時期からアヴァンギャルドとして制作活動を開始し、ルポルタージュ絵画や「制作者懇談会」、概念芸術への接近以後の《梵天の塔》《BRAHMAN》など、池田が歩んできたアヴァンギャルドの軌跡を一望できる展観となっていた。とりわけ見応えがあったのは、朱色を多用した油彩画や水彩を丁寧に塗り重ねたペン画など、細やかな手わざを駆使した初期の作品で、アヴァンギャルドの精神が堅実な技術と明確な絵画意識に支えられていたことが明らかにされていた。その決して短くない軌跡に現われていたのは、芸術で社会を変革するという外向性が次第にみずからの内奥と宇宙空間を連続してとらえようとする内向性へと反転していく過程。それは、いってみれば戦後美術の変転の様子と重なっているのであり、その意味で池田の制作活動には戦後美術の歴史が凝縮されているように思えた。今後、川崎市岡本太郎美術館、福岡県立美術館に巡回予定。

2010/07/18(日)(福住廉)

artscapeレビュー /relation/e_00009210.json s 1217788

瀬戸内国際芸術祭 2010

会期:2010/07/19~2010/10/31

瀬戸内海の7つの島と高松港[香川県、岡山県]

注目のアートイベントにさっそく足を運んだ。2日間フル稼働で取材したが、女木島、男木島、小豆島、豊島と高松港を回るのが精一杯。直島、犬島、大島は後日に持ち越しとなった。すべての会場を巡るには1週間ぐらい必要だろう。真夏の瀬戸内は高温多湿で日差しがきついため体力的にはハードだったが、精神的にはとても充実した2日間だった。瀬戸内と聞くとつい海ばかりを連想してしまうが、実際は海岸部だけでなく、内陸部でも数多くの展示が行われていた。地域の自然、生活、文化、習俗とアートが密接に交流し、美術館やギャラリーでは味わえない広がりのあるアート体験ができた。1回目から完成度の高いイベントに仕上げてきた関係者に賛辞を送りたい。今後もさらに充実を図り、越後妻有と並んで日本を代表する地域密着型アートイベントとなることを期待する。なお、筆者のおすすめは、小豆島の王文志と岸本真之、女木島のロルフ・ユリアス、男木島の中西中井、豊島のキャメロン・ロビンスとジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラーだ。

2010/07/18(日)・19(月)(小吹隆文)

artscapeレビュー /relation/e_00009790.json s 1217789

2010年08月01日号の
artscapeレビュー