2024年03月01日号
次回3月18日更新予定

artscapeレビュー

学習院大学史料館開館35周年記念コレクション展「是(これ)!」展

2011年12月01日号

会期:2011/010/01~2011/12/03

学習院大学史料館展示室(北2号館1階)[東京都]

1975年に開館した学習院大学史料館は、今年で開館35周年を迎えた。これを記念して、収蔵品から優品35点を展示する。現在、史料館には14万点を超える収蔵品がある。その中心は古文書で、絵画や工芸品の比率は少ないとは言え、展示室における年二回の展覧会で紹介できる作品の数は限られる。歴史的に貴重な品であったとしても、テーマを定めた企画展からは外れるものもあるだろう。そこで今回の展覧会では統一したテーマは設定せず、収蔵品のなかから学芸員・研究員が選んだ優品を展示するという企画である。もちろん、それだけでは単なる収蔵品展である。今回の展覧会がユニークなのは、公式な作品解説のほかに、学芸員・研究員がそれを選んだ理由、お勧めのポイントを短い文章で、書店やスーパーのPOPのように、作品に付している点。とても面白い試みである。
 収蔵品には学習院の関係者や教育関連の資料のほか、皇族、旧華族関連の寄贈品、寄託品が多数あり、今回の展覧会にも皇室に関係する史料が多く出品されている。なかでも工芸品として興味を惹かれたのは「ボンボニエール」である。ボンボニエールとは、皇室や華族の慶事の際に列席者に配られる小さな菓子入れ(金平糖が入れられる)で、史料館には現在100点ほどのコレクションがあるとのこと。特に戦前のものには、複葉機[図1]、鶴置物[図2]、兜[図3]など、意匠を凝らしたものが多く見られる。いずれも手のひらに乗る小さなもので、菓子入れとしての実用にはほど遠いものの、その造形はとても楽しい。慶事の内容にもよるが、多いときには2,000個から3,000個が数社に分けて発注されたという。そのために、同じものでもつくりに差が見られるのだそうだ。
 また、史料館の客員研究員である皇太子殿下の「是!」は「牛車」。「唐車」と呼ばれるもっとも身分が高い人々が用いた牛車の図(西園寺家史料「九条家車図」、江戸時代)を中心に、戦前まで残されていた江戸時代末期の唐車の写真や、牛車型のボンボニエール[図4]などが合わせて展示されている。交通史を研究されてきた殿下ならではのセレクションである。[新川徳彦]


1──銀製複葉機形ボンボニエール(朝香宮孚彦[たかひこ]王成年式)、昭和7年(1932)10月
2──銀製双鶴置物形ボンボニエール(大正天皇大婚25年祝典)、大正14年(1925)5月23日



3──銀製鳥兜形ボンボニエール(皇太子[今上天皇]御降誕奉祝御餐宴)、昭和9年(1934)9月24日
4──牛車形ボンボニエール(ベルギー特派大使タイス氏午餐会)、昭和9年(1934)6月1日
すべて提供=学習院大学史料館

2011/10/10(月)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00014872.json l 10016641

2011年12月01日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ