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artscapeレビュー

加藤翼「11.3project」

2011年12月01日号

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会期:2011/011/03~2011/11/03

福島県いわき市平豊間兎渡路[福島県]

この土地のシンボルと思われる塩屋崎灯台が遠くで屹立するなか、その1/2スケールの構造物が、ゆっくりとバランスをとりながら引き興されていった。ロープを引く200人ほどの参加者に加藤翼は「せーの」と何度も声をかける。参加者はその声とともにひとつになった。感動的な光景だった。これまでも、参加者が一丸となってロープを引っぱり、構造体を引き倒したり引き興したりするパフォーマンスを加藤は行なってきた。ただし、それは基本的に芸術的な行為であり、それ以外ではなかった。今回のこれは違う。メインイベントの前座にあたる、地元の歌手による歌謡ショーは1時間以上続いた。演歌や懐メロが高らかに鳴り響き、歌手の冗談が笑いを誘う、その声は地震と津波の猛威の爪痕がいたるところに残る場所を癒していた。当地の人々にとって、これはたんなる芸術活動ではない。久しぶりに顔を合わせた人々、笑い顔の影で、いたるところで涙が流れていた。当地でボランティア活動を続けてきた加藤が、その思いを自分の芸術的な方法をとおして表現した。文化の力で「11.3」という日に「3.11」をひっくり返す。社会のなかへ介入し、加藤の作品にひとつの社会的な意味が生まれた。さて、その成果をどう芸術の問題として展開してゆくことになるのか、その点から今後の加藤の活動に注目していきたい。

2011/11/03(木)(木村覚)

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