artscapeレビュー

下平竜矢「星霜連関」

2015年12月15日号

会期:2015/11/10~2015/11/23

新宿ニコンサロン[東京都]

下平竜矢は、10年前に移り住んだ青森県八戸市の古い神社で獅子舞を見た時に、「原始の時間が現出した」ように感じたという。それ以来、「かの始めの時」を求めて各地の祭礼や民俗行事を中心に撮影してきた。それは芳賀日出男、内藤正敏、須田一政など、これまで多くの写真家が取り上げてきたテーマだし、近年でも石川直樹や小林紀晴の仕事が思い浮かぶ。だが、それらの写真家たちとの差異性を意識し過ぎることなく、自分のやり方を押し通していったことで、独自の質感を備えた写真群が形をとりつつある。今回、新宿ニコンサロンで開催された個展、およびZEN FOTO GALLERYから刊行された同名の写真集を見て、下平の作品の方向性が着実に固まってきたことを確認できた。
出品作33点には、祭礼や行事の様子がしっかりと記録されているものもある。だがむしろ目につくのは、炎、水、空気のどよめき、群集のうごめきなどに還元された、何が写っているのかよくわからない写真だ。つまり下平は、オーソドックスな「民俗写真」の作法に寄りかかることなく、「原始の時間」をむしろ直接的につかみ取ろうとしているのではないだろうか。そのことは、写真展や写真集に、日付、場所、行事についてのデータ、キャプションが一切省かれていることからも裏づけることができる。このやり方が諸刃の剣であることをよく承知しつつ、彼があえて「未知なる感覚」にチャレンジしようとしていることを評価したい。
なお、同時期に東京・渋谷の東塔堂でも作品19点による同名の個展が開催された(2015年11月17日~11月28日)。こちらはより徹底して、風景から立ち上ってくる「気配」に集中している。

2015/11/18(水)(飯沢耕太郎)

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