2017年06月15日号
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artscapeレビュー

学園前アートウィーク2015

2015年12月15日号

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会期:2015/11/07~2015/11/15

大和文華館文華ホール、帝塚山大学18号館、学園前ホール ラウンジ(奈良市西部会館3階)、淺沼記念館、中村家住宅、GALLERY GM-1[奈良県]

関西屈指の高級住宅街と言われる奈良市内の学園前エリアで、初開催となる地域型アートイベント。学園前は、戦後、郊外型ベッドタウンとして宅地開発され、地域名の由来ともなった帝塚山大学や東洋美術のコレクションで知られる大和文華館のある文教地区である。会場ボランティアは地元の年配の人が多く、地域が受け入れようとしている姿勢を感じた。現代アートをツーリズムと結び付け、「地域活性化」を目指す地域型アートイベントはすでに各地で乱立・飽和状態だが、高齢化・過疎化は山間・農村部だけの問題ではなく、都市沿線部の住宅地でも(潜在的に)進行している。その意味では、今後、同様の郊外ニュータウンでのアートイベントの先駆例となっていくかもしれない。
この種のアートイベントでは、「地域の魅力の再発見」がまずもって至上命令とされるが、本イベントでは、1909年に建設された奈良ホテルのラウンジの一部を移築した大和文華館文華ホール、企業家の邸宅で茶室や庭もある淺沼記念館といったゴージャスな空間と、木造の空き家や大学校舎を組み合わせ、コンパクトながらこの地域の性質がよく分かるような会場がセレクトされていた。大和文華館文華ホールでは、荒々しく飛び散る墨の飛沫に仮託したエネルギー/繊細な筆致の細密描写、俯瞰/微視的な描き込みを共存させながら東北の風景を描く三瀬夏之介の巨大な屏風作品が存在感を放っていた。また、淺沼記念館では、ダイニングのテーブルクロスの刺繍と同じ模様を、ワイングラスの内部に施すことで、グラスの水面に模様が映りこんでいるかのような繊細なインスタレーションを展開した森末由美子の作品が光っていた。
また、地域性や展示空間への言及とは無関係に強い印象を残したのが、稲垣智子の映像インスタレーション作品《GHOST》である。4面に投影された映像では、それぞれ、黒いジャケットを着た男性の手と情熱的に抱き合う/激しくもみ合う/泣いているのを慰められる/優しく抱き合う女性の姿が映し出される。屏風状のスクリーンは、片側が鏡面になっているため、恋人と抱擁する女性たちの半身は、左右対称に分裂し、あるいは二頭の怪物に変化したかのような不気味な様相を呈してくる。そうした不気味さや不穏感は、男性の頭部が見えないことでより増幅され、戦慄的なラストへと収束する。愛撫してくれる、強引に迫ってくる、慰めてくれる男性たちは、実は女性の一人芝居であり、自らの片腕をジャケットの袖に通して、男性の「手」を演じていたのだ。しかし女性たちは、ハンガーに吊るされた空っぽのジャケットに気づくことなく、包まれるように一体化してしまう。稲垣の作品は常に、多幸感と暴力性という二面性でもって見る者を突き刺すが、《GHOST》では、「ロマンティックな恋愛」「抱きしめたり慰めてくれる男性」という幻影を自らつくり上げ、その虚構の回路の中に取り込まれていく恐怖が、目覚めなければ幸福な夢として描き出されている。それは、女性を消費主体として生産される少女漫画や恋愛ドラマにおいては、男性は「不在」であり、自己の願望的な分身の投影にすぎないということ、そのナルシスティックな幻想の回路を、虚実の狭間を曖昧に融解させる鏡という装置を用いて提示した、巧みなインスタレーションだった。


稲垣智子《GHOST》 撮影:増田好郎

2015/11/15(日)(高嶋慈)

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