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artscapeレビュー

西江雅之『写真集 花のある遠景』

2015年12月15日号

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発行所:左右社

発行日:2015年11月20日

西江雅之(1937~2015)は東京生まれの文化人類学者・言語学者。3年間風呂に入らない、同じ服を着続ける、歯ブラシ一本で砂漠を踏破した、といった「伝説」が残るが、生涯にわたってアフリカ、アジア、中米などに足跡を残した大旅行家でもあった。その彼が撮影した数万カットに及ぶ写真群から、管啓次郎と加原菜穂子が構成した遺作写真集が本書である。
前書きとしておさめられたエッセイ「影を拾う」(初出は『写真時代 INTERNATIONAL』[コアマガジン、1996])で、西江は自分にとって写真とは「時間とは無縁に存在する形そのものを作る」ことだったと書いている。何をどのように撮るのかという意図をなるべく外して、被写体との出会いに賭け「『うまく行け!』と、半ば祈りながらシャッターを押す」。このような、優れたスナップシューターに必須の感覚を、西江はどうやら最初から身につけていたようだ。本書におさめられた写真の数は決して多くはないが、その一点、一点がみずみずしい輝きを発して目に飛び込んでくる。「形」を捕まえる才能だけではなく、そこに命を吹き込む魔術を心得ていたのではないだろうか。
西江の写真を見ながら思い出したのは、クロード・レヴィ=ストロースが1930年代に撮影したブラジル奥地の未開の部族の写真をまとめた『ブラジルへの郷愁』(みすず書房、1995)である。レヴィ=ストロースのナンビクワラ族と西江のマサイ族の写真のどちらにも、写真家と被写体との共感の輪が緩やかに広がっていくような気配が漂っている。「人類学者の視線」というカテゴリーが想定できそうでもある。

2015/11/21(土)(飯沢耕太郎)

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