artscapeレビュー

怖い絵展

2017年11月15日号

会期:2017/10/07~2017/12/17

上野の森美術館[東京都]

中野京子のベストセラー・シリーズ『怖い絵』にあやかった企画展。怖い絵といっても神話や聖書から採られた主題の作品が大半なので、絵そのものが怖いというより、ストーリーが怖かったり、これから起こる出来事を想像すると背筋が寒くなるという作品が多い。例えば今回の目玉作品《レディ・ジェーン・グレイの処刑》を見ると、目隠しされた少女がなにやら手探りしている。左の女性たちが顔を背けたり壁のほうを向いているので、目隠し鬼ごっこでもしてるのかと思ったりもするが(思わないか)、タイトルを見て解説を読み、手前にあるのが断頭台で、右側に斧を持った処刑人が立っているのがわかれば、このあとの恐ろしい出来事が予想できるってわけ。
《チャールズ1世の幸福だった日々》は解説を読まなければぜんぜん怖くない。イングランド王が家来を伴い家族で優雅に船遊びに興じている場面で、怖いどころか幸せそうだ(幸せが怖いという人もいるが)。じつはこのあとチャールズ1世が斬首される運命にあることを知れば、幸福そうな家族の行楽もまた違った見方ができるはず。でもそれは10年以上先の話であって、そんな先の運命まで読み取れないし、絵に表わすこともできない。もしこれを「怖い絵」というなら、19世紀以前に描かれた肖像画のモデルはいまではすべて死んでいるから、どれも「怖い絵」になってしまうだろう。
と、ひとまずケチをつけたところで、でもこの展覧会はなかなか示唆に富んでいる。出品作品の大半は18-19世紀のロマン主義や象徴主義の絵画に占められ、間違っても明るい陽光の下で描いた印象派や20世紀のキュビスムとか抽象画とかは出てこない。だが、例えばモネには死にゆく妻を描いた《死の床のカミーユ・モネ》のような恐ろしい絵があるし、20世紀のシュルレアリスムまで範囲を広げれば「怖い絵」だらけになる。ピカソの《ゲルニカ》なんか虐殺される民衆を描いた恐ろしい絵だが、これを怖いという人はあまりいない。そうなるといったいなにが「怖い」のか、「怖いとはなにか」という根本的な疑問にぶち当たるが、けっこうそんなところにこの展覧会の狙いがあるのかもしれない。ちなみに、フューズリの《夢魔》(ただし小品)、モッサの《彼女》、ローランスの《フォルモススの審判》あたりは絵そのものが十分怖かった。

2017/10/06(金)(村田真)

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